MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2004年8月号
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鈴鹿市立飯野小学校・阿部元子教諭による『あやとりぃ』の授業
気づくことから安全運転へ

児童用交通安全教育プログラム『あやとりぃ』が全面的に改訂されました。新しい『あやとりぃ』には、危険予測が加えられ、発展学習として「自転車」や「車」など交通社会全般を学ぶ内容も付加されています。授業時間もこれまでの9時間から12時間に増えました。4月からは新しい『あやとりぃ』による授業が行なわれています。これによって、子どもたちの気づきの教育はどのように進化したのでしょうか。三重県にある小学校の現場から探ってみました。

『あやとりぃ』とは「あんぜんを、やさしく、ときあかし、りかいして、いただく」の略称で小学3〜4年生を対象に教え込むのではなく、子どもたちに考えさせて気づく能力を育む交通安全教育プログラム。小学校の授業で活用されている。

今年4月末から3年生の総合学習の時間に新しい『あやとりぃ』を活用した交通安全の授業を行なっている三重県鈴鹿市立飯野小学校。6月3日午後2時、3年生3クラスの児童を対象に、『あやとりぃ』の授業が始まりました。この日の授業を担当したのは、阿部元子教諭と笠井倫明教諭。
最初は、危ないクルマの存在を知らせ、それに対する行動・心構えを理解するワークシートNo.11「くるまにびっくりいろいろ」の授業。その次に、安全に行動するために次に何が起こるかを予測することの重要性を理解し、「内輪差」などのクルマの特性を学ぶワークシートNo.12「このあとどうなるいろいろ」の授業を行ないました。
授業を終えた笠井教諭は、新『あやとりぃ』の重要なポイントとして危険予測を取り入れたことを評価しています。「3年生ともなれば、危険を予測するという力は持っていますが、外に出て何かに夢中になっていると、まわりが見えなくなって、その力を発揮できないのです。冷静になって、これから何が起きるかということを、きちんと予測して行動することの大切さを理解させるという点で、『あやとりぃ』は子どもが興味を示すような仕掛けがあって、教材としてよくできています。私たちがクルマや自転車の模型を利用したように、この教材に教師がひと工夫することで、さらに効果が高まるのではないでしょうか」。

授業の最後に『あやとりぃ』のワークシート裏面の「みんなのコーナー」を記入する児童たち

阿部教諭は今回の授業のねらいを、「安全だと思える場所も実は安全でない状況があることを子どもたちに気づかせること」と言います。「『あやとりぃ』によって、青信号で渡る時も、道路の路側帯の内側を歩いている時にも、常に危険が潜んでいることが理解できたでしょう。交通を含めて身のまわりのあらゆる場面にある死角を教えていくのが私たちの仕事だと思っています。例えば『廊下を走ってはいけない』というルールを破った時に、どういうことが起きるのか、子どもたちにきちんと理解してほしい。このあやとりぃの授業を学校内の事故を減らすことにもつなげていきたい」と、阿部教諭は意欲を示します。
1997年に鈴鹿市の小学校で『あやとりぃ』の授業が始まって8年。鈴鹿市では現在まで30校で活用されてきました。そして今年、新たに改訂された『あやとりぃ』に教育関係者は注目しています。7月1日に飯野小学校校長から、鈴鹿市教育委員会教育長に就任した水井健二さんは「鈴鹿市には優れた地域の教育力とも言うべき、全国でもまれな鈴鹿モビリティ研究会という組織と『あやとりぃ』という優れた教材があるので、鈴鹿モビリティ研究会と連携を深め、将来的には鈴鹿市の全小学校の授業で『あやとりぃ』を取り入れたい」と、具体的に普及計画をたてて取り組むと述べています。
「民間の企業や団体に子どもの命を守るための優れたノウハウがあれば、それを学校教育の中に取り込んでいくべきです。人の命を守るという視点を大切にしてつくられたモノや活動を展開している企業、街はいつまでも残るでしょう」という言葉に、水井教育長の新『あやとりぃ』にかける期待の大きさがこめられています。

 新『あやとりぃ』の変更点
解説・『あやとりぃ』改訂のポイント

『あやとりぃ』(監修:蓮花一己・帝塚山大学教授)の改訂は、『あやとりぃ』を実施した鈴鹿市立の小学校2校での交通行動の観察調査、および実施と未実施それぞれ3校での質問紙調査などの効果測定研究をもとにして行われました。効果測定研究によって明らかになったことは、児童の交通行動に、信号無視、遊びながらの横断、追いかけっこなど危険行動が数多く見られたことで、とくに信号交差点での行動に問題が多く、教育での改善が見られなかったことです。これに関連してプログラムの問題点として、児童の理解度をチェックしていない、教育手法が不明確なところがある、ハザード知覚※1(危険予測)などを扱っていない、などが明らかになりました。
以上から、改訂版では、遊び(とくに集団遊び)、信号交差点の横断、ハザード知覚、理解度チェックの手法の導入を重視すべき内容としました。そのポイントは下記の4つです。
 ■改訂のポイント
  ・登下校時の「〜ながら」歩きや遊び行動が危険であると認識させ、
   日常生活に結びつける(観察調査研究から)
  ・信号交差点での行動の仕方を訓練する
  ・ハザード知覚教育(ハザード知覚研究から)
   危険な場所や危ない自動車などを発見する能力を身につける
  ・行動修正法※2の採用(ドイツの事例から)
   実際に校外へ出て、安全な歩き方や交差点のわたり方を体験し、
   
安全な行動を身につける

※1ハザード知覚=交通事故の可能性を高める要因のことをハザード(危険)と呼び、自分の行動を適切かつ安全に遂行するために、その状況でのハザードを予測し、見つけ出す作業のことをいう

※2行動修正法=行動が習得されたかチェックを行なう

SJ8月号では鈴鹿市立飯野小学校と久居市立戸木小学校での『あやとりぃ』の授業の様子も紹介しています。

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