MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2004年5月号
navi
東京・練馬区の石井常清さん。石井さんにとってクルマは「人生の喜び」
クルマとの関わりを深める高齢ドライバーの生活と交通行動

現在、日本の総人口に占める高齢者の割合は19%ですが、昨年の交通事故死者数7702人に占める高齢者の死者数の割合は初めて40%を超え、人口比を大きく上回っています。負傷者数に占める高齢者の割合では10.5%とまだ低いものの、この10年の推移を見ると1.97倍と年齢層別では最も増加しています。そのなかでも自動車乗車中に負傷した高齢者の数は2.78倍とひときわ高い増加を示しています。今後、高齢ドライバーが年々増えるなかで、自動車乗車中の高齢者事故を防止することが、最も重要な課題の1つとされています。2002年6月高齢者講習が従来の75歳以上から70歳以上に拡大され、70歳以上の高齢者は3年ごとの免許更新時に講習が義務付けられましたが、今回はその対象となる高齢ドライバーの方にクルマとの関わり、日頃の運転行動をうかがいました。


今回の「高齢ドライバーの運転行動と意見」インタビューに答えていただいたのは、三重県・鈴鹿市で5名、埼玉県の和光市で3名、東京で2名、合わせて10名の高齢ドライバーの方々。主な質問項目の1.クルマと生活、2.クルマと運転行動、3.交通社会への要望・意見について、鈴鹿グループと東京と和光市グループで回答が共通する項目と、傾向が分かれる項目が見えてきました。傾向が分かれたのはクルマと生活。鈴鹿市の方々は、クルマの運転が家族の通学・通勤・通院などの送迎、地域の活動などと結びついているのに対し、東京・和光の方々では核家族化や地域社会との関係が薄い、いわゆる都会的な背景があるのでしょうか、家族の送迎や地域活動の要素はあまり見られませんでした。

「運転すると気持ちに張りができるし、面白い。
 年をとったら、逆にクルマが必要だと思います」
東京・練馬区に住む石井常清さん(71歳)は運転歴30年。ゴルフのほかに登山、パラグライダーなどのアウトドアスポーツを趣味としてきた石井さんは、そうした週末・休日の移動用としてクルマを運転してきました。「クルマもオフロードタイプの四輪駆動車で、クラッチ操作の手ごたえを感じながら、山道をぐんぐんと走るのが好きでしたね」と言います。65歳で仕事から退いた後、病気をされて、パラグライダーをやめたのをきっかけに、オートマチックの乗用車に乗り換えました。「オートマチック車に乗り換えたときは勝手が違いました。乗り換えた当初、日帰り温泉の帰りにゆるやかな山道を下っているとき乗り心地がよく、しかも運転が手持ち無沙汰で、つい居眠りをして側道に乗り上げたことがあります。幸い怪我はなかったのですが、新車がかなりやられました。それがいい経験といってはおかしいですが、気をつけるようになり事故はありません」。
見るからに活動的な石井さんも、最近は歳を感じるようになったそうです。「クルマで横浜に遊びに行った時、T字路を間違って入ってしまい、戻ろうとしてバックする時にけっこうもたついてしまったんです。以前から、確かにバックがおっくうになっていました。首を後ろに振り向いて体をよじって、右手でハンドルを操作するのがきつくなって。体が硬くなっているんですね」。他にも、狭い道や人通りのある商店街の道でも後で思い返して、怖いと思うことをときどきするようになってきたといいます。
石井さんは7月に誕生日を迎えるので、初めて高齢者講習を受けますが、気が進まないそうです。運転適性テストも実技講習も初めて。「若い頃スポーツをやっていたので運動神経はいいと思っていますが、10年ほど前に白内障で右目の視力がかなり落ちたので、適性テストでなんと言われるか不安です。それと人に教えられるのが嫌いで、パソコンでも、オートマチックに乗り換え時も、参考書を頼りに独学で覚えました。どうも素直じゃないから」と苦笑します。「もし、免許を返納するように言われたら、これはショックです。クルマのない生活は考えられない。あるという安心感があります。運転すると気持ちに張りができるし、面白い。年をとったら逆にクルマが必要だと思います。今のクルマからもう1台買い換えて、それを走りきるまで運転していたいですね」。石井さんにとって、「クルマは人生の楽しみ」である。

 家族の送迎、地域活動などに
クルマを活用する鈴鹿の高齢ドライバー
鈴鹿市では、春の全国交通安全運動の初日の4月6日、鈴鹿市旭が丘公民館で開かれた旭が丘地区の「シルバー交通教室」の参加者80名のうち旭が丘亀老クラブ5名にインタビューしました。いずれも、クルマは生活の足となっています。運転歴40年の近藤義文さん(73歳)は、息子夫婦が仕事で朝早く出るので毎日、高校生と大学生の孫を白子駅へ送るのを日課にしています。「高校生と大学生では通学の時間帯が違うので、別々に2回往復します。市役所勤務の息子が、飲んで帰る日には運転して帰宅できないので、朝は送っていくようにしています」。地域の活動では県人会が桜の苗木を植えた公園の管理、町会の資源ゴミ担当の副会長として資源ゴミを出す日にゴミ出しの立ち会い、指導などで運転しています。「自分のためにも、腰が悪いので理学療法を受けに毎日、整形外科へ行くし、ゴルフの打ちっ放しに行くときなど、とにかく出かけるのはすべてクルマです」。
女性もクルマで活発に動いています。運転歴23年、73歳の伊藤紀代恵さんは、「嫁が働いているので、高校生、中学生の孫を塾へ送るのが私の役目。雨の日は学校へも送っていきます。趣味の講座を受けに公民館へ、津市のお寺へは月3回行きます。年間1万km走っています」。1967年に免許取得後10年間のペーパードライバーを経てから本格的に運転を始めて実質運転歴28年の阿部晃子さん(69歳)も、老人会の用事で1日に2回はクルマを運転し、市老連(家から車で10分)や県老連(同30分)への用事などの地域活動が運転の多くを占めています。月に1回はレジャー(100km以内)にも行くといいます。「クルマに乗れると、人に頼まなくても自分で行きたいところへ行け、動ける範囲が広くなる。老人会の活動には欠かせません」。

 自転車や高齢歩行者の動きに
 注意している
気をつけていることとして、石井常清さんは「自転車は交差点などでも信号無視が多いし、いい加減に走っている人もいるので気をつけています。バイクのすり抜けも怖い。若い頃は気にしなかったのですが、気になるということが年をとった証拠かもしれません」。近藤義文さんは「年輩の歩行者はクルマのことなど全然考えずにゆうゆうと歩いているので、よほど気をつけないといけない」と、状況をわきまえない高齢者の動きに注意を向けています。高齢者の動きへの厳しい視線は、反面で高齢者と見られたくないという気持ちになって表れるようです。70歳以上のドライバーには、高齢者マークを付けることが推奨されていますが、伊藤紀代恵さんは「老人扱いされるので、高齢者マークはつけたくない。自分も高齢者マークをつけている運転者を見て『年いっているなあ』と思ったりするので」と話します。高齢という枠で特別視されたくないという思いがあるともいえます。
今回のインタビューではほとんどの方が長く乗り続けたい気持ちをもっている一方で、体力などの衰えも自覚されていました。やはり、少しでも長く運転するには運転能力を判断できる教育が必要です。では、高齢者の教育はどのように行なわれているのか、7月号では高齢ドライバーの教育の現場を追いかけていく予定です。
鈴鹿市の近藤義文さんは高校生と大学生の孫を白子駅へ送るのが日課

SJ5月号ではここで登場された以外の高齢ドライバーの方々の運転行動と意見も紹介しています。

この記事へのご意見・ご感想は下記のメールアドレスへ
sj-mail@ast-creative.co.jp

 
  安全運転普及活動コンテンツINDEX