MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2004年3月号
navi
増加する事故件数は減らせるか─課題に向けて─

出席者: 岸田孝弥 高崎経済大学教授
鈴木春男 自由学園最高学部長・千葉大学名誉教授
長江啓泰 日本大学名誉教授
(五十音順)

2003年の交通事故は死者数が7702人と、1957年以来46年ぶりに8000人を下回る大きな減少となりました。死者数の大幅な減少の要因について、警察庁はそれまでの取り締まり中心の対策から、死者数を減らすことを重視した自動車保安基準の見直し、緊急医療体制の整備、安全教育の普及などの総合的な安全対策への転換をあげています。ただし、大きな課題も残りました。2002年こそ減少に転じた事故件数が再び増加し、94万7993件と過去最悪だった2001年の記録を更新。負傷者数も増加し、過去最悪の2001年に迫る118万1431人になりました。これらの課題に、交通事故に占める割合が初めて40%を超えた高齢者の対策を含め、どのような対策が必要なのか、事故分析をもとに識者の方々に話し合っていただきました。


警察が気づかないような見えない事故を市民レベルで具現化し、
評価していくことが大事になっています
岸田孝弥
高崎経済大学
教授
交通事故件数を減らすには、小さい交通事故を自分のなかでどうとらえていくか、どう評価するかが重要です。ちょっとした状況が変わった時の把握が甘いと、小さな事故を起こす。それはやっぱりまずいなと思って気を引き締め、自分で気をつけるようになることが大事であると多くの方にわかってもらうようにしないと、事故件数は減らないのではないかと考えています。
私が勤める大学がある群馬県あたりで見ますと、高齢者は家族の運転で動くか、タクシーです。自動車乗車中の高齢者の死亡事故が増えているのは、まさに高齢者の移動手段がクルマしかなくなっているからです。家族とクルマに乗る時、高齢者は後部座席に座ることが多いと思います。ですから、後部座席でのシートベルトの着用を徹底するといったことを地道にしていけば、かなり死亡事故も減ると思います。これから交通事故を減らす、死者を減らすには、これだという妙手はなくて、小さな気がついたことを地道に積み上げていくことだと思います。

鈴木春男
自由学園
最高学部長・
千葉大学
名誉教授
小さい交通事故をどのように具現化していくか、つまり誰の目にもそれが問題であると目につくようにすることの1つの手法は統計的に表すこと。統計にほとんど出てこない物損事故を統計に取ることも必要です。もう1つは、見えない事故を市民レベルから具現化していく方向です。その具現化の重要な手法としてヒヤリ地図があります。警察が気づかないような、そして小事故に結びつくようなヒヤリ体験を、市民レベルで具現化させるのです。一人ひとりの市民の提示したヒヤリ体験のところで事故が起こっていないとしても、そこで事故が起こる可能性があるものとして、それを材料にして警察や行政が気づく、吸い上げる方向性が大事です。
地域のなかで交通安全を考えるときに、交通だけではなくて、犯罪とか自然災害までを含んで安全を考えていくことがとても大事だと思います。地域のなかの交通安全、防災、防犯などについてそれこそ世代間の交流を進め、高齢者が中心になりながら、孫の世代とか、そのお母さんの世代と協力して考えていくことで、交通安全も深まっていくと思います。

長江啓泰
日本大学
名誉教授
死者数が8000人を切ったことはすばらしいと思います。そのうえで、2002年は死者数、事故件数、負傷者数ともに減ったのに、昨年は事故件数、負傷者数が再び増えたことが重大な問題です。
交通事故件数を減らすには、すべての対策をやろうとしないで、この数年でいちばん多い事故を対象に的を絞ってやる必要があります。「これは危ないですよ。だからこうしましょうね。わかりましたか?」という方法ではなくて、高齢者だったら、その地域で多い事故について高齢者自身がどう見るのか、どうしたらいいのか提案をさせて、みんなで考える。たとえば、春と秋の交通安全運動を全国一律の同じようなテーマでやるのではなく、それぞれの地域でいちばんシリアスな問題を1つだけ重点的に取り上げてやっていく。その結果を半年間なら半年間検証してみるといった一種の草の根運動みたいなことをしていかないと、号令一下で何かをやることでは追いつかないような気がします。

写真左から、岸田孝弥さん、長江啓泰さん、鈴木春男さん

 
  安全運転普及活動コンテンツINDEX