MONTHLY THE SAFETY JAPAN●2003年12月号
人見信男 警察庁交通局長
大久保博司  本田技研工業株式会社専務取締役
安全運転普及本部本部長
今年初め、政府は今後10年間で交通事故による死者を半減して、道路交通では世界一安全な国にするという大きな目標を掲げました。この目標を実現するために、交通安全対策の方向性に求められるものは何か、交通安全教育の推進を含めた交通安全対策のあり方について、人見信男・警察庁交通局長と大久保博司・ホンダ安全運転普及本部本部長にお話しいただきました。


少子高齢社会への変化を見きわめた
交通安全対策の取り組みが必要

 人見信男  警察庁交通局長
第7次交通安全基本計画では平成17年までに、交通事故死者数8466人以下にするという目標を立てたわけですが、こんなに早く達成するとは思いませんでした。そして、さらに10年間で世界一安全な国にするという目標をいただいて、これは大変だと思うと共に、これをスローガンで終わらせないようにするには、これまでの対策の評価とともに、何が効果があり、何が効果が低減しているのかという分析をし、新たな施策を立てるようにしないといけないと考えています。そのためにも交通安全対策を単に交通の面だけではなくて、社会がどういう方向に動いていくかという視点から捉えていく必要があります。
平成10年に交通安全教育指針を作って、幼児・子どもからお年寄りまでの体系的な交通安全教育の推進を図っていますが、家庭、学校、教習所など体系化された教育ということでは、私の個人的な考えですが、子どもの時の教育が大事だと思います。学校でしっかりとした教育を行なうことによって、交通安全教育のみならず、自分を大切にすると同時に他人を大切にする、思い合う気持ちがマナーになる。交通マナーだけ良くなるのではなくて、マナー全体が良くなる。その根底はやはり人間としての他者に対する「思いやり」や「いたわり」、共存していこうという気持ちを芽生えさせ、定着させないかぎり、本当の意味での交通安全はできないと思います。だから、子どもの教育が大事なのです。



 大久保博司 本田技研工業株式会社専務取締役 安全運転普及本部本部長
運転者が相手に対する「思いやり」や「気配り」の気持ちをもって、ハンドルを握るかどうかで、事故は大きく回避できるものと思われます。クルマの開発の発想の原点も人への「思いやり」です。その両面の考え方があって、それが浸透し、施策が生まれ、交通事故半減につながると思います。
IT時代を迎え、クルマそのものは安全・環境面を含めて、非常に高度に進化しつつあり、この流れはさらに加速すると思います。その一方で、実際にクルマを動かす最終的責任はやはり人に戻るわけで、人の安全教育の重要性は時代がどのように変化しても変わらないでしょうし、そのうえでITの進展に対応した安全教育を考えていくべきだと思います。
そういう観点から私どもの安全運転普及活動では2つの柱を立てています。1つはお客様一人ひとりへ安全を手渡しする活動です。これはお客様のニーズなどに合ったアドバイスをきちっとしていこうということです。もう1つは参加体験型の実践教育です。私どもは「危険を安全に体験する」と言っていますが、体験を通じて自らの「気づき」の場を提供していく活動です。
これから、さらにITを駆使したシミュレーターなどを大いに活用しながら、幼児から高齢者まで、幅広い方々に参加体験型の安全教育の「場」を提供していきたいと考えています。それで1人でも交通事故の死者が減るということにお役に立てれば、これ以上の喜びはないと考えております。


 
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