Hondaパワープロダクツプロダクト ヒストリー

Hondaパワープロダクツの歴史を商品カテゴリー別でご紹介します。

Honda 4ストロークエンジン搭載の船外機誕生

「水上を走るもの、水を汚すべからず」
これは、Hondaの創業者である本田宗一郎が
船外機事業に乗り出すときの信念でした。

船外機とは、動力を持たない船舶の後部に取り付けて推進力を得る動力ユニットです。エンジンを使用してプロペラを駆動し、漁業やフィッシング、さらにレジャーなど幅広い用途に使用され、そのメンテナンス性や取り外しの簡単さなどで近年では急速に需要が伸びています。

Hondaがはじめて船外機の販売を開始したのは1964年。当時の船外機市場は、部品点数が少なく構造が簡単なため、価格が安く軽量で、高出力を出しやすい2ストロークエンジンが主流で4ストロークエンジンの船外機は、ほとんど存在していませんでした。

しかし、Hondaの創業者である本田宗一郎は以下のように4ストロークエンジンを使用した船外機の開発を指示しました。
「水を汚さないことだ。排気と一緒に燃え残りのオイルなんぞ水中にたれ流してたら、海も湖も川もどうなっちまうと思う? だからヨソはぜんぶ2ストロークかもしれんが、ホンダは4ストロークでやるべきだ。2ストより重くなる、高くなるなんてのは、知恵出して負けないようにすりゃあいい」(出典:1998年3月発行 「夢の実現へ、チャレンジの50年展」)

これに基づいて、「水上を走るもの水を汚すべからず」という信念のもと、本田宗一郎は4ストロークエンジンを使用した船外機の開発を指示しました。
船外機は水中のプロペラ中央部から排気ガスを排出する構造のため、潤滑オイルと燃料を混合して使用する2ストロークエンジンでは、排出ガス中にも未燃焼ガスが含まれることから、より水を汚すと考え、本田宗一郎は燃焼効率の良い4ストロークエンジンでの開発を指示したのです。

この指示を受け、Hondaは前年の1963年に発売した排気量132ccの4ストローク汎用エンジンG30をベースに開発を開始。チェーンでプロペラを駆動する構造を採用した、排気量171ccで4馬力を発揮する4ストロークエンジン搭載の船外機GB30の販売を1964年に開始しました。以降、Hondaは最新型のV型8気筒エンジン搭載のBF350に至るまで、一貫して4ストロークエンジンを搭載した船外機を製造しています。

Honda初の船外機として4ストロークエンジンを搭載したGB30

販売を開始したGB30は工具を使わずにエンジンを取り外すことが可能で、陸上で汎用エンジンとしても使用できるなどの付加価値のある商品でした。また、4ストロークエンジンならではの低回転時の粘り強さや静粛性、低燃費などが魅力の商品でもありました。さらに、低速のトローリングに合わせた出力特性で、クリーンな排出ガスが水質保持の必要な牡蠣や海苔の養殖、その他の漁業にも効果的な商品でした。
しかし、安価で軽量な2ストロークエンジン全盛の時代に、部品点数が多いため、価格と重量面で不利な状況のHonda4ストローク船外機の販売は苦戦を強いられました。

それでもHondaは、その後、出力2.5馬力の4ストローク船外機GB25、4馬力のGB40の販売を1967年に開始し、商品の充実を図りました。
しかし、ここまでは、あくまでも汎用エンジンを使用した船外機であり、Hondaは1971年に船外機用に専用設計した水平対向2気筒で排気量126ccの4ストロークエンジンを搭載した船外機45TWIN、そして船外機としては世界で初めてOHC機構を採用した直列2気筒で排気量149ccの船外機75TWINの販売を開始しました。

水平対向2気筒の45TWINとOHC機構を採用した75TWIN

こうして、2ストローク全盛の船外機市場にHondaは4ストロークエンジン搭載船外機の商品ラインアップ充実と商品性を向上させることで挑戦を続けましたが、販売状況が大幅に向上することはありませんでした。

2ストローク船外機で市場の形成が進む中、それでもHondaは4ストローク船外機を貫いた。

1964年に発売したGB30を皮切りに、Hondaは環境に優しい4ストロークエンジン搭載の船外機を展開してきました。しかし当時のマリン市場では、2ストロークエンジン搭載の船外機が主流であり、Hondaの4ストローク船外機は重量面・価格面で不利な立場にありました。

一方でHondaは、環境性能に優れた4ストローク船外機のラインアップ拡充を進めます。1971年には45TWINと75TWINを投入し、1977年には排気量197ccの4ストロークエンジンを搭載した10馬力のBF100を発売。2馬力から10馬力までの小型船外機をラインアップしました。

世界的な需要を狙って開発されたBF100

しかしその頃、市場では既に2ストロークエンジン搭載の55馬力、85馬力、更には200/225馬力といった高馬力船外機が次々と登場しており、Hondaにとっては、市場ニーズの高い馬力帯の商品ラインアップを十分に揃えられていないことが大きな課題となっていました。

Hondaは市場の声に応えるため「MSプロジェクト」という名前の社内プロジェクトを発足させ、新たに出力35馬力と45馬力の中型船外機の開発をスタートさせました。
そして、1990年に排気量808ccで出力35馬力のBF35Aと出力45馬力のBF45Aを、欧州と北米に加えてニュージーランドで販売開始。これらの機種は、中型馬力帯において世界初となる4ストローク船外機であり、当時としては高い環境性能と静粛性を備えた新しい船外機として、アメリカのシカゴボートショーで「IMTEC INNOVATION AWARD」を受賞。世界から注目を集めることになりました。
*IMTEC : International Marine Trades Exhibit and Conferenceの略

さらに1993年には、スイス・オーストリア・ドイツの3か国にまたがるボーデン湖で、水質改善のために「ボーデン湖船舶規則(通称ボーデン湖規制)」という、厳しい排出ガス規制が制定されることになりました。人気の観光地であるとともに、ボーデン湖に繋がるライン川沿いに住む住民にとって飲料用の水源として利用されているボーデン湖は、1960年代以降、生活排水や工場排水などの流入で水質汚染が進み、排水処理の強化とともに、マリンレジャーで航行する船のエンジンに対しても、排出ガス規制が制定されることになったのです。

当時、世界のマリン市場は圧倒的に2ストロークエンジンを搭載した船外機が主流でした。しかし2ストロークエンジンは、4ストロークエンジンと比較してNOx(一酸化窒素と二酸化窒素)の排出量は少ないものの、HC(炭化水素)の排出量が非常に多く、これが水質汚染の原因とされていました。このため、制定されたボーデン湖規制を2ストロークエンジンでクリアするのは、極めて厳しい状況で、各メーカーは4ストロークエンジンによる規制対応を進めることになります。

ボーデン湖規制は1993年に一次規制が施行され、1995年には二次規制が施行される段階規制でしたが、Hondaの4ストロークエンジン搭載の船外機は1992年に二次規制までをクリア。最初にクリアしたのは北欧4か国で発売されていた出力8馬力のBF8Bで、翌1993年には中型船外機BF40Bも規制をクリアしました。Hondaが初代の船外機から採用してきた4ストロークエンジンの環境優位性が明らかになったのでした。

そして、ヨーロッパに続いて、世界の最大市場であるアメリカでも、1998年にアメリカ環境保護庁(以下EPA)による「連邦大気基準船舶規制」が制定されると、アメリカで販売しているHondaの船外機は、全モデルが規制をクリア。しかも、1998年から段階的に2006年までにクリアすべき最終規制値を、初年度の1998年にクリアしたのです。

このボーデン湖規制とEPAの規制をクリアしたことでHondaの船外機は注目を集めるようになり、1993年から世界生産台数も右肩上がりに増加。1993年に25万台ほどだった累計生産台数は、1994年には40万台を超え、1999年には70万台に到達。世界中で、海上はもとより、大気汚染も含めての環境に対する問題意識が拡大していくようになったこともあわせ、Hondaは「クリーンで高品質な船外機メーカー」、さらには「4ストローク船外機のリーディングカンパニー」として市場認知が高まっていきました。

この頃からマリン市場では高出力帯の4ストローク船外機の需要が高まりを見せ、これに応えるようにHondaも1995年に排気量1590ccで75馬力のBF75や90馬力のBF90の販売を開始し、中型船外機の商品ラインアップの拡充を図りました。

また、4ストローク船外機の高馬力化を求める市場ニーズに対応するため、Hondaは独自の戦略を策定します。それは、高出力化に必要な大排気量エンジンを、四輪車のエンジンをベースに開発することで、欧米で評価の高かったHonda車のブランドの強みを活用。四輪車エンジンで性能や信頼性が確立された数々の技術を船外機用に転用し、四輪車技術のマリナイズ(マリン用エンジンに調整すること)を積極的に行いました。
その結果、1998年には四輪車「アコード」の排気量2254ccのエンジンを船外機用に流用し115馬力のBF115と130馬力のBF130の販売を開始。また2001年には、EPA規制よりも厳しいといわれている、アメリカ・カリフォルニア州大気資源局(CARB)が制定した2008年の排出ガス規制を大幅にクリアするフラッグシップモデル、排気量3471ccで225馬力を発揮するBF225の販売も開始しました。

このBF225のベースとしたエンジンは、ラグレイトなどに搭載された排気量3.5LのV型6気筒エンジンで、電子制御燃料噴射PGM-FIや、可変バルブタイミングVTECを搭載していたことで、その新技術が船外機にも採用されるという好循環となっていったのです。

BF225はV型6気筒エンジンを採用することで高い環境性能と共に、抜群の経済性と信頼性を実現した。

これでHondaの4ストロークエンジン搭載船外機のラインアップは、2馬力から225馬力までの15機種となり、観光船や漁船などの業務用途から、クルージングやスポーツフィッシングなどのレジャー用途まで、幅広い需要に応えられるものになっていきました。

市場評価が高まったHonda船外機に2度の予想外の試練

1990年代に入る頃には、大気汚染を含めて環境意識が世界的に強まったことで、Hondaの4ストローク船外機への注目、評価が高まっていきました。

この頃の船外機市場は、大型化と高出力化を求められる傾向にありました。Hondaもこの大型化と高出力化のニーズに合わせた船外機の開発に着手します。

そして、1995年には、当時このクラスの4ストローク船外機として世界初となる、排気量1,590ccで出力90馬力のBF90と、出力75馬力のBF75の販売を開始しました。

4ストロークエンジン搭載の船外機としては当時世界初の90馬力船外機「BF90」(左)と75馬力船外機「BF75」(右)

また、1998年に4ストローク船外機としては当時の最大出力となる、排気量2,254ccで130馬力のBF130と、115馬力のBF115を発売。さらに2001年には、Hondaの四輪車であるレジェンドやラグレイト(北米名オデッセイ)に搭載された排気量3,471ccのV型6気筒エンジンを使用した、出力225馬力のBF225と、出力200馬力のBF200の販売を開始するなど、市場の求める大型高出力化を実現し、船外機のラインアップの充実を図りました。BF225とBF200は、世界一厳しいといわれるカリフォルニア大気資源局(=CARB)の2008年排出ガス規制値を7年も前倒しでクリアする、高い環境性能を備えた商品でした。

高い環境性能と抜群の経済性と信頼性を実現した「BF225」(左)と「BF200」(右)

この2001年の時点で、Honda船外機は出力2馬力から225馬力までの15機種となり、河川や湖沼でのレジャーから海洋クルージング、スポーツフィッシングなど、より幅広いユーザーニーズに対応可能なラインアップを展開していました。

さらに2003年には、世界で初めてDOHC VTEC(可変バルブタイミング機構)や可変管長吸気システムを採用した出力150馬力のBF150と、135馬力のBF135を発売。すでにフラッグシップモデルとしてBF225をラインアップしていましたが、多種多様な用途や大きさのボートに搭載できる船外機として、高出力帯の商品ラインアップを充実させました。

DOHC VTECを採用した「BF150」(左)と、出力135馬力の「BF135」(右)

Hondaの四輪車エンジンの技術であるDOHC VTECを搭載したエンジンを採用することで、全世界でHondaの高い技術力のイメージが訴求でき、同時に船外機としては世界初採用のLAFセンサー(排出ガス検知式空燃比センサー)を用いたリーンバーン(希薄燃焼)制御を採用したことにより、自社既販機比で20%の低燃費を実現することができました。

また、エンジン性能に大きな影響を与える冷却に関しても、シリンダーヘッドとシリンダーブロックの冷却水経路を独立させ、それぞれの経路にサーモスタットを設置、経路ごとに制御を行うことで出力向上を図るなど、高出力化を望む市場のニーズに応えていきました。

環境性能や低燃費性能、耐久信頼性に優れた4ストロークエンジン船外機メーカーとして市場認知が高まっていたHondaでしたが、2004年1月、寝耳に水の情報が飛び込んできました。Hondaを含む日本の船外機メーカーが、アメリカの同業企業であるMercury Marine(Brunswick社)からアンチダンピング(不当廉売)提訴を受けたのです。

約13ヶ月にも及ぶ調査と審議期間を経て、最終的な判決は日本側の勝訴で終了した係争となりましたが、この間Hondaのマリンビジネスや商品ラインアップについては、計画変更や見直しを余儀なくされることとなりました。

また2008年には、アメリカを発端とする金融危機・リーマンショックが世界を震撼させます。リーマンショックは船外機市場全体に影響を与え、特に船外機のレジャー利用面の落ち込みが激しく、2007年には10万台に届こうとしていたHonda船外機の生産台数は、2008年に6万台以下、2009年には5万台以下へと落ち込みました。

当然、売上の落ち込みだけでなく、開発の大幅な見直しも迫られ、発売直前だった新機種の発売も延期となってしまいました。

このような状況の中で、2011年には出力225馬力のBF225のエンジン排気量を3,583ccにアップさせ、250馬力の船外機BF250の市場投入を実現しました。

船外機としては当時世界初の技術となる「ダイレクト吸気システム」を採用した「BF250」

そして2024年には、4,952ccの排気量で出力350馬力を誇る専用設計のV型8気筒エンジンを新たに開発し、BF350を発売しました。このエンジンは、好評のVTECを採用し、O2センサーを使用した空燃比フィードバック制御などにより、高出力と同時にクラストップレベルの低燃費も実現。このBF350はHonda船外機の新たなフラッグシップモデルとして、デザインも一新し、様々な使い勝手の向上を図るとともに高い静粛性と上質感を備え、これまでの船外機とは一線を画す高級感を実現した待望のニューモデルとなりました。

フラッグシップモデルにふさわしい高級感を表現した「Noble Motion Form」デザインを採用した「BF350」アクアマリンシルバーメタリック(左)・グランプリホワイト(右)

このような中で、Hondaは新たな取り組みを始めています。それが四輪を含む次世代モビリティのキーワード「CASE」です。

CはConnected(コネクテッド)=常にインターネットに接続されていること、AはAutonomous(オートノマス)=自動運転、SはShared & Services(シェア&シェアリングサービス)=船外機を所有するのではなく、必要な時に利用する仕組み、そしてEはElectric(エレクトリック)=電動化を進めて動力をガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関からバッテリーとモーターに向かうこと、の頭文字をとったものです。

船外機の分野では離岸・着岸の自動化や、走行時の巡航速度制御(クルーズコントロール)技術などの操船サポート技術を、そしてAIやGPS技術を使用した自動航行の技術開発を模索し、2021年には電動推進機のコンセプトモデルを発表、2023年8月から実証実験もスタートさせています。

水上モビリティへの船外機の役割は、時代やお客様のニーズとともに移り変わっていきます。それでもHonda船外機は、創業者の想いである「水上を走るもの、水を汚すべからず」という信念を忘れることなく、社会とお客様に喜ばれ、期待される活動を続けていきます。