2ストローク船外機で市場の形成が進む中、それでもHondaは4ストローク船外機を貫いた。
一貫して環境にやさしい4ストローク船外機を作り続けて来たHonda。
その信念が理解され、実を結んだのは
船外機事業に乗り出して30年が経過したころでした。
1964年に発売したGB30を皮切りに、Hondaは環境に優しい4ストロークエンジン搭載の船外機を展開してきました。しかし当時のマリン市場では、2ストロークエンジン搭載の船外機が主流であり、Hondaの4ストローク船外機は重量面・価格面で不利な立場にありました。
一方でHondaは、環境性能に優れた4ストローク船外機のラインアップ拡充を進めます。1971年には45TWINと75TWINを投入し、1977年には排気量197ccの4ストロークエンジンを搭載した10馬力のBF100を発売。2馬力から10馬力までの小型船外機をラインアップしました。
世界的な需要を狙って開発されたBF100
しかしその頃、市場では既に2ストロークエンジン搭載の55馬力、85馬力、更には200/225馬力といった高馬力船外機が次々と登場しており、Hondaにとっては、市場ニーズの高い馬力帯の商品ラインアップを十分に揃えられていないことが大きな課題となっていました。
Hondaは市場の声に応えるため「MSプロジェクト」という名前の社内プロジェクトを発足させ、新たに出力35馬力と45馬力の中型船外機の開発をスタートさせました。
そして、1990年に排気量808ccで出力35馬力のBF35Aと出力45馬力のBF45Aを、欧州と北米に加えてニュージーランドで販売開始。これらの機種は、中型馬力帯において世界初となる4ストローク船外機であり、当時としては高い環境性能と静粛性を備えた新しい船外機として、アメリカのシカゴボートショーで「IMTEC INNOVATION AWARD」を受賞。世界から注目を集めることになりました。
*IMTEC : International Marine Trades Exhibit and conferenceの略
さらに1993年には、スイス・オーストリア・ドイツの3か国にまたがるボーデン湖で、水質改善のために「ボーデン湖船舶規則(通称ボーデン湖規制)」という、厳しい排出ガス規制が制定されることになりました。人気の観光地であるとともに、ボーデン湖に繋がるライン川沿いに住む住民にとって飲料用の水源として利用されているボーデン湖は、1960年代以降、生活排水や工場排水などの流入で水質汚染が進み、排水処理の強化とともに、マリンレジャーで航行する船のエンジンに対しても、排出ガス規制が制定されることになったのです。
当時、世界のマリン市場は圧倒的に2ストロークエンジンを搭載した船外機が主流でした。しかし2ストロークエンジンは、4ストロークエンジンと比較してNOx(一酸化窒素と二酸化窒素)の排出量は少ないものの、HC(炭化水素)の排出量が非常に多く、これが水質汚染の原因とされていました。このため、制定されたボーデン湖規制を2ストロークエンジンでクリアするのは、極めて厳しい状況で、各メーカーは4ストロークエンジンによる規制対応を進めることになります。
ボーデン湖規制は1993年に一次規制が施行され、1995年には二次規制が施行される段階規制でしたが、Hondaの4ストロークエンジン搭載の船外機は1992年に二次規制までをクリア。最初にクリアしたのは北欧4か国で発売されていた出力8馬力のBF8Bで、翌1993年には中型船外機BF40Bも規制をクリアしました。Hondaが初代の船外機から採用してきた4ストロークエンジンの環境優位性が明らかになったのでした。
そして、ヨーロッパに続いて、世界の最大市場であるアメリカでも、1998年にアメリカ環境保護庁(以下EPA)による「連邦大気基準船舶規制」が制定されると、アメリカで販売しているHondaの船外機は、全モデルが規制をクリア。しかも、1998年から段階的に2006年までにクリアすべき最終規制値を、初年度の1998年にクリアしたのです。
このボーデン湖規制とEPAの規制をクリアしたことでHondaの船外機は注目を集めるようになり、1993年から世界生産台数も右肩上がりに増加。1993年に25万台ほどだった累計生産台数は、1994年には40万台を超え、1999年には70万台に到達。世界中で、海上はもとより、大気汚染も含めての環境に対する問題意識が拡大していくようになったこともあわせ、Hondaは「クリーンで高品質な船外機メーカー」、さらには「4ストローク船外機のリーディングカンパニー」として市場認知が高まっていきました。
この頃からマリン市場では高出力帯の4ストローク船外機の需要が高まりを見せ、これに応えるようにHondaも1995年に排気量1590ccで75馬力のBF75や90馬力のBF90の販売を開始し、中型船外機の商品ラインアップの拡充を図りました。

また、4ストローク船外機の高馬力化を求める市場ニーズに対応するため、Hondaは独自の戦略を策定します。それは、高出力化に必要な大排気量エンジンを、四輪車のエンジンをベースに開発することで、欧米で評価の高かったHonda車のブランドの強みを活用。四輪車エンジンで性能や信頼性が確立された数々の技術を船外機用に転用し、四輪車技術のマリナイズ(マリン用エンジンに調整すること)を積極的に行ないました。
その結果、1998年には四輪車「アコード」の排気量2254ccのエンジンを船外機用に流用し115馬力のBF115と130馬力のBF130の販売を開始。また2001年には、EPA規制よりも厳しいといわれている、アメリカ・カリフォルニア州大気資源局(CARB)が制定した2008年の排出ガス規制を大幅にクリアするフラッグシップモデル、排気量3471ccで225馬力を発揮するBF225の販売も開始しました。

このBF225のベースとしたエンジンは、ラグレイトなどに搭載された排気量3.5LのV型6気筒エンジンで、電子制御燃料噴射PGM-FIや、可変バルブタイミングVTECを搭載していたことで、その新技術が船外機にも採用されるという好循環となっていったのです。
BF225はV型6気筒エンジンを採用することで高い環境性能と共に、抜群の経済性と信頼性を実現した。
これでHondaの4ストロークエンジン搭載船外機のラインアップは、2馬力から225馬力までの15機種となり、観光船や漁船などの業務用途から、クルージングやスポーツフィッシングなどのレジャー用途まで、幅広い需要に応えられるものになっていきました。