21世紀最初の全日本選手権も最終戦。会場となるスポーツランド菅生は、大量の岩を入れ、新しいセクションも開拓されて、試合の流れはよりエキサイティングなものが期待された。
2週間前の中部大会で惜敗した藤波貴久(Honda)だったが、ここまでの7戦を5勝2敗としてチャンピオンに王手。ここで5位に入れば、黒山健一(ベータ)がたとえ優勝してもチャンピオンは決定するという計算だったが、しかし5位で満足できる藤波ではない。完璧な勝利をもってシリーズチャンピオンに輝きたい。それが藤波の唯一、そして絶対の目標だった。
今回のセクションは、新規に入れられた岩の効果もあって、全体にやや辛口な設定となっていた。藤波が2メートルはあろうというステアケースのある第3セクションで足をつけば、黒山も新たに開拓された4セクションで1点減点。その4セクションで、今度は藤波も1点減点というハイレベルなシーソーゲームを展開する。
しかし藤波は、黒山に対してのわずか1点の劣勢を、まったく意に介さず、試合を進めていく。はたして黒山は第5セクションで減点3、藤波はクリーン。今度は藤波が2点リードとなった。ラインのない第6セクション、黒山はさらに減点1点を追加して、藤波は3点のリードをとった。
しかしまだまだ試合は始まったばかりだ。第7セクションの大岩の飛び石ポイントで、藤波はやや目測をあやまり、減点3。リードを帳消しとして、両者の戦いは振り出しに戻った。このふたりに続くは、野崎史高(ヤマハ)、田中太一(ベータ)。藤波、黒山とは、かつては同じチームに属した仲間でもある。しかしこのふたりも、トップ争いを展開するふたりに割って入ることはできず、いつものとおり、藤波と黒山の戦いは別次元だ。
トップライダーにとって、今回最大の難所となったのは第10、最終セクションだった。パドックのすぐ裏手に位置するこのセクションは、造成工事によって新たに現れた新セクションだ。強烈な登りは、ライダーを次々にはね落としていく。褌身の力で、最初にこのセクションを減点3で切り抜けたのは野崎だった。その直後、黒山がトライ。しかし黒山はここを抜けられずに、時間切れで減点5。
ライバルの減点5を確認しながら、しかし藤波がここを抜けられる確証はない。田中太一が、別ラインでからくもマシンを運び出し減点3となったあと、藤波は田中と同じラインで、危なげない走りで減点3。黒山に対して2点リードで1ラップ目を終了した。
この時点で、5時間半の持ち時間の大半を使いはたして、残るは2時間足らず。2ラップ3ラップは、これもいつものとおり、コンセントレーションを維持したまま、いかに早くセクションを消化していくかも勝負となる。
2ラップ目、藤波は第9セクションまでオールクリーン。対して黒山は、1ラップ目も減点3となった第5セクション、木の根を越えて登る泥の斜面で2点の減点を喫して、その差は4点となっていた。
ここで最終10セクション。自信はあった、と語る黒山だが、このセクションの最初の岩盤で失敗して減点5。1ラップ目と同じく、藤波がここを3点で無難にこなせば、戦況はさらに藤波に有利になる。
しかし藤波は、脱出確実だが3点減点を覚悟しなければいけないラインではなく、クリーンを狙って直登するラインを選んだ。見事登ったと思った瞬間、アンダーガードを岩盤に叩きつけて失速。失敗の5点。4点差は変わらず、勝負は最終ラップにもつれ込んだ。
3ラップ目、黒山はちょっとしたミスで、減点を増やしていった。藤波も第5セクションで3点の減点を喫したが、黒山のミスは7点にも及んだ。最終セクションに到着したときには、その差8点。もはや勝負あり。ここを黒山がクリーンして藤波が5点となっても、藤波の勝利は揺るがない。
勝負がついたふたりは、ラインを確認しあって次々にトライ。ここまで難攻不落だった凶悪なセクションを、まず藤波が見事な加速でクリーンすれば、すぐあとに黒山もまったく同じようにクリーン。ふたりの卓越したライディングテクニックの前に、不可能はないと思わせるような素晴らしいパフォーマンスを見せて、最終戦は幕を閉じ、同時に2001年シーズンも終了したのだった。
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