藤波と黒山のシーソーゲームで始まり、いまや世界を代表するトップライダーのふたりが雌雄を決した昨年の全日本戦。今年も、あの緊張感あふれる試合が見られるのか……。
天候に恵まれた茨城県真壁トライアルパークには、1,600人の熱心なファンが集まった。マカベは、一昨年までの全日本の会場としておなじみの場所。白い砂まじりの岩肌を登り降りするセクション構成が主体となったが、観客にとってはセクションへのアクセスが楽で、観戦は容易だった。
用意された12のセクションは、急な登りにマカベ独特の滑りやすい岩が配置されたものが多く、一瞬の油断でグリップを失い坂の下までまっ逆さま。藤波が語るように、技術的には“簡単”なのだが、ちょっとのミスが1点や2点にならず、いきなり5点につながるという点で、ライダーには神経をとがらせてのトライが要求されていた。
特にライバルが黒山健一とあっては、一瞬の油断がすべてを決定づけてしまう。トップライダーの戦いは、いつものような神経戦に突入していった。均衡が破れたのは1ラップ目第6セクション。ここで黒山がほんの少しバランスを崩して減点1、さらに第10セクションでも減点1を喫してしまって、藤波に2点のリードを奪われることになった。
そそり立つような最終セクションはふたりとも5点で、ここは変化なし。ところが2ラップ目に入っての第8セクションの登頂に失敗して、バイクを谷底までたたき落としてしまった。もちろん、黒山はこんなことではくじけない。
ところが今度は藤波が、少しずつミスを重ねてしまった。第8セクション2点、第10セクション1点の合計3点は、あるいは勝負の流れを決めるかもしれない減点だった。
1ラップ目、ふたりが唯一ふたり揃って5点となった強力なヒルクライムだったが、2ラップ目には、ここでも均衡が破れた。藤波が途中で失速して5点をとるのを待っていたようにセクションインした黒山は、スムーズにノンストップで出口までマシンを運び、出口の1回の足つきのみの1点。
ここでふたりは、同点に並んだのだ。ピーンと張りつめた緊張感が、ふたりの周囲には漂っている。今度は、黒山が先に足を出した。第6セクションで減点1。藤波は最終12セクションまでは、すべてクリーンでまとめあげた。
そしてふたりが最終セクションに到着した。黒山は第2ラップの減点1がくやしかった。もっとうまくやれば、クリーンが可能なのにと。
残り時間10分を切って、まず黒山がセクションイン。今度も、ノーストップで急坂にアプローチする。ところが今回は、坂の手前でふられてしまって充分な加速ができなかった。5点!それを見て、藤波がマシンに駆け寄る。三谷英明のアドバイスを受け、着実に坂の手前で体制をとりなおす。そのための停止1回1点減点だった。そして見事、減点1!藤波と黒山の間には、結局5点の減点差が生じていた。
なお、この後、藤波は世界選手権第1戦イギリス大会のために渡英する予定だったが、イギリス大会は口蹄疫予防のために中止となってしまった。しかし藤波は予定通り日本を出発して、ヨーロッパで世界選手権開幕に向けてトレーニングに励む。
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