OCEAN MASTER STORY

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世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2017.05.18
名匠一族の新たなる挑戦 9

工程は、船体建造1層目へ。

建造が進むRIGBY。
ダブルプランキングによる作業がはじまった。
昨年、起工式を終えたRIGBYだが、現在は船体外板の張り付け作業に入っている。
以前ご紹介したとおり、船体はダブルプランキングによって造られる。ダブルプランキングというのは木造艇の伝統的な建造方法で、二重張りの外板構造である。つまり船の骨格ともいえる縦通材に1層目を張り、さらにその上に2層目を張っていくというものだ。
RIGBYの場合、1層目にチーク材を用い、事実上の外板となる2層目にマホガニーを使う。
この使用木材の銘を聴いただけで、木造艇ファンが漏らすため息が聴こえてきそうだ。
さらに言うと、舳(みよし=ステム)はマホガニーの中の一級品、ホンジュラス・マホガニーからの切り出されたものだし、船底を貫くキールも、長さ26尺のチークから製材された一本ものだ。
(参考 :名匠一族の新たなる挑戦 6 ≫)
佐野造船所が造り出す木造艇は、船の価値を理解する世界中のボートファンから注目を集めている。
そのことを踏まえて考えると、完成後のRIGBYを買い受けたいという声が殺到するであろうことは想像に難しくないのだが、おしいかな、いかなる資産家もRIGBY初号艇を買うことはできない。売却予定はないのだそうだ。とはいえ、いずれ龍也氏に試算はお願いしたいと思っている。RIGBYの初号艇は買えないにしても、同型艇の建造注文が必ずあると確信しているからだ。
今話から外板建造についてリポートを始める。
龍也氏から作業工程について説明を受けた。それによると工程は以下のようになる。
船体は船側(せんそく=チャインからシアーラインまで)と、船底(チャインからキールまで=ボトム)に分けて考え、さらに右舷と左舷に分けて作業工程を組む。つまり船体を4部分(左舷船側、右舷船側、左舷船底、右舷船底)に分けるという考え方だ。
まずは左舷船側から1層目のチークを張り始め、続いて右舷の船側に取り掛かる。そして両舷船側の1層目を終えると2層目の作業となるわけだ。この間、船底部分は手を付けず、縦通材が剝き出しのままだ。
1層目のために製材されたチーク材は、幅5寸(約15cm)、長さ5尺(約1.5m)、厚みは4分(約1.2cm)。ちなみに2層目に使用するマホガニーは6分(1.8cm)厚に製材するそうだから、縦通材を包む船殻は2層で1寸(約3cm)の厚みが持たされることになる。
作業としては、写真のとおりチーク材を船体の中央部から斜めに張っていく。
シアーラインやチャインに対して「何度」という角度は設定していないそうだが、60センチ間隔で組まれたフレームを斜めに繋ぐように張っていくのがポイント。
フレームと縦通材にエピグルーというエポキシ系の高性能樹脂接着剤と、木ねじ(もくねじ)で固定していく1層目だが、トランサム寄りのシアーライン付近は曲線が強いということもあり、クランプを使ってゆっくり丁寧にチーク材を曲げていく。
それでも力加減ひとつでチーク材が割れてしまうことがあるそうで、その対策として龍也氏が考えたのが板にスリットを入れる方法だった。
4分の厚さに製材された長さ5尺のチーク材の半分ほどを、2分厚に裂くようにスリットを入れることで、しなやかなチーク材にさらなる柔軟性がもたらされ、龍也氏が船体に求める美しい曲線が実現していった。
船体は左舷船側、右舷船側、左舷船底、右舷船底の4つのパートに分けて作業工程を組む。この写真は、左舷船側の1層目のチーク材を張り終えたところ。
取材協力:(有)佐野造船所
文・写真:大野晴一郎
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