OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2016.01.06
名匠一族の新たなる挑戦 3

30フィートランナバウト、
いよいよ建造へ

レインボーブリッジを眺めながらキャスティング。狙いはシーバスだ。
12月中旬、船型を見直した3作目のハーフモデルが完成し、いよいよ原図製作に。
ダブルプランキングで造り上げられる船体は、
ホンジュラス・マホガニーとチークが組み合わされることが決まった。
この日は午後の釣行だったが、いつもは東京の夜景を眺めながら
ナイトゲームを楽しんでいるという龍也氏の1投目。
操船するのは龍太郎氏。
BF115が載せられた和船で潮見から走ること約10分。
お台場に到着するなり、キャストされたルアーにシーバスがきた。
12月中旬の活性が落ちたシーバスを仕留めたのは佐野龍也氏だ。
ルアーが沈み込むのを待ち、ゆっくりとリトリーブ。そしてわずか5投目でシーバスが食い付いてきた。サイズは40センチ強。
時間のある週末は必ず仲間とシーバス釣りに出かけるという龍也氏だが、たいていはナイトゲームを楽しむのだそうだ。
レインボーブリッジをくぐり、夜景を眺めながらキャスティングすることこそが、まさに東京湾のシーバス釣りの醍醐味だという。もちろん毎回釣果はある。70センチ前後の手応えのあるシーバスがくる。この日は撮影という条件があったために、午後2時過ぎに佐野造船所を出航したのだが、「12月?釣れますけど、サイズは期待できないですよ」と以前から龍也氏に言われていた。湾奥の大物は12月になれば早々に深場に潜り込み、産卵の準備だ。真冬の海の中層から浅瀬を泳ぐのはフッコサイズが多い。しかも活性はない。だからアングラーの腕が試される面白い釣りになる。「口にルアーを合わせてやれ」そんなことをよく耳にするが、簡単にはできない。なのに、この日は正味30分で3匹ヒット。うち1匹は姿を見せずして逃げ落ちていったが、2匹のシーバスが和船のガンネルを超すのを目撃した。
レインボーブリッジとビル群を眺めながらキャスティング。東京湾らしい釣りだ。
1/10のスケールで造られるハーフモデルは、実艇と同じくホンジュラス・マホガニーを削って造られる。硬い木をカンナで削っていくのは楽ではない。
ピンポインでキャストする龍也氏をサポートしたのは佐野龍太郎氏だったが、いきなりの釣果を驚くでもなく、和船を巧みにコントロール。艇体重量の軽い和船は風と潮の影響を大きく受けて笹の葉のように流されるはずだったが、それがない。龍也氏のロッドの振り先を見極めながら、楽々とポジションキープ。上手い。誰でもできそうに思ってしまうが、それは錯覚。くわえて、短時間に3度も大きくロッドがしなるのを見せられ、12月でもシーバスは簡単に釣れそうに思ってしまうが、もちろんそれも錯覚。 なにやら錯覚だらけで、木に餅がなるのを見せられたような釣行だった。
ところでBF250を2基搭載する30フィートランナバウト建造だが、間もなく原図製作が始まろうとしている。 11月のことだ。久しぶりに龍也氏を佐野造船所に訪ねた時、30フィートランナバウトの主要素材であるホンジュラス・マホガニーの調達が、非常に難しくなっているという話を聴かされた。絶滅の恐れのある野生動植物の種の保護を目的とするワシントン条約の付属書II(付属書II:現在、絶滅の恐れはないが、取引を規制しないと絶滅のおそれのあるもの。商取引は可能だが輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要)に登録されるホンジュラス・マホガニーは、流通量が極端に少なくなっているというのがその理由だ。 原産地の中南米で、どのように伐採が行われてきたのか分かりかねるが、とにかく希少な木材となってしまい、しかもそのほとんどは欧州の高級家具メーカーや楽器メーカーが独占的に確保し、日本には僅かにその一部が輸入されているに過ぎないというのが現状だ。 ところが、ようやく日本の保税倉庫に揚がったホンジュラス・マホガニーも、楽器製作に使うには充分でも、船の建造に使える大きさがあるのかというと、龍也氏によれば「新規に輸入されるものは小さいものばかり」ということだ。 その話しを受けて龍太郎氏が言った。 「大きい木が原産地で無くなったということでしょうね。需要が高いから伐採に追われ、植林が間にあっていないということでしょう」 そのうえ、希少性が理由でかなり高額になってしまった。
リトリーブはスローで。活性が落ちたシーバスの鼻先を、ゆっくりルアーを泳がせるためだ。
ハーフモデルのスターンを削る。小指の方が船底となる。ホンジュラス・マホガニーは無垢の状態でも赤味がかっているが、ニスを塗り重ねていくと赤褐色に美しく輝く。
すでに佐野造船所では30フィートランナバウトのために、大方のホンジュラス・マホガニーを確保しているが、それはすべて外板に使用し、ダブルプランキングで建造する船体の一層目(内側)や骨組みには、佐野造船所が所有するチークを用いることに決めた。チークも高価な木材だが、龍也氏の祖父にあたる佐野一郎氏が買い求めていたもので、長さが10メーターもある貴重なものだ。 「ヨットの外板に使えるような最高の木なんですけどね。おやじ(一郎氏)も孫が造る船に自分が集めたチークが使われるとなれば喜んでくれるでしょう」と龍太郎氏が言う。
まずは1匹目。わずか5投でヒット。龍也氏にとっては物足りないフッコサイズだったが、12月中旬という時期を考えれば立派な釣果だ。このあとリリースした。
シーバス釣りから数日後、龍也氏から3作目の1/10スケールのハーフモデルが完成したと連絡があった。新たに書きおこしたライン図や原図製作の光景とともに、近々ご紹介したいと思う。 余談だが、ハーフモデル用に切り出されたホンジュラス・マホガニーと、同サイズに切ったアフリカ産のアフリカン・マホガニーを見せてもらったことがある。 龍也氏に「アフリカン・マホガニーの方は歪んでいるでしょう」と言われ、目を凝らすと、たしかに波打っている。ホンジュラス・マホガニーの代替材という印象が強いアフリカン・マホガニーだが、どうやら歪みや曲がりなどの「狂い」が生じやすい素材らしい。 龍太郎氏によれば、「アフリカン・マホガニーは成長が早く、その分、密度が低くて狂いが生じやすい」ということだ。 対してホンジュラス・マホガニーは、硬く、狂わず、腐りにくい。これに希少性を加えると、その頭文字は昨今の超美映像の「4K」と一緒だ。色調も赤褐色で華やか。しかも時間とともに色味に深みが加わっていく。佐野造船所がホンジュラス・マホガニーにこだわる理由はそこにある。
取材協力:(有)佐野造船所
文・写真:大野晴一郎
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