OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2022.03.31
名匠一族の新たなる挑戦 29

建造中のワンオフ艇
SANO 30FBOffshore Fishing Cruiser
Honda船外機BF250D 2基搭載へ

2019年より建造が始まった佐野造船所の
30FB Offshore Fishing Cruiser。
BF250Dが搭載され、いよいよ進水間近となった。
こだわりのフィッシング機能と、
マホガニーを多用した豪華な仕様に注目が集まっている。

■エンジン搭載へ

今年2022年2月22日、佐野造船所で建造中のワンオフ艇、30FB Offshore Fishing CruiserにHondaのフラッグシップ船外機BF250 Dが2基搭載された。
当初29フィート艇として設計されたことは 2019年6月公開の記事で紹介しているが、オーナーさんと佐野龍太郎社長が打ち合わせを繰り返す中で、1フィート延ばされて30フィート艇となった。またそれに合わせてエンジンもBF225Dの2基掛けからBF250Dの2基掛けへと変更された。
オーナーさんはSANO 23 Offshore Fishing Cruiserを長く乗りこまれてきた方で、サノブランドのOffshore Fishing Cruiserの船としての美しさ、乗りやすさ、堅ろう性などに惚れられ、30フィート艇をオーダーされた。
今回特筆すべきことはオーナーさんの希望でFB(フライブリッジ)仕様になったことだ。
ご自身がFBで操船している際の解放感、爽快感を求められているのに加え、ゲストへのサービスという一面も考えられているようだ。

■燃料タンクは760リッター

燃料タンクがデッキ下に収められたのは2021年の2月のことだ。容量は760リッター。
バウからデッキの造り込みが始まり、アフトデッキの製作に入ってまもなく、その作業は行われた。同時に100リッターの清水タンクとジェネレーター用の50リッターの軽油タンクも収められた。このあと燃料タンクの上にはデッキ補強のフレームが渡され、マリングレード合板が張られた上に、12mm厚のチーク材がデッキ全面を覆う豪華な仕様となる。

■操船は3か所で

SANO 30FB Offshore Fishing Cruiserのコントロールステーションは3か所。
キャビン内のメインステーションに加え、フィッシング対応のアフトデッキ右舷側に設けられたアウターステーション、さらにFB(フライ・ブリッジ)のアッパーステーションだ。
主だった装備は以下の通り。
●FB(アッパー)
・Honda純正マルチディスプレイ
・フルノGPS魚探
・フルノ自動操舵装置
●キャビン(メイン)
・Honda純正マルチディスプレイ
・フルノGPS魚探
・フルノ自動操舵装置
●デッキ(右舷側 アウター)
・フルノ自動操舵装置
ほかにマリン無線、バウスラスターのスイッチなども装備される。

オーナーさんは釣りスタイルが確立されたベテランで、様々な要望を設計の前段階から佐野社長に相談されてきた。外洋での釣りに精通する佐野社長はそのすべてを理解し、建造に活かしてきた。カスタム性を追求できるというのはワンオフ艇建造の魅力だろう。

■マホガニーに包まれたキャビン

「豪華なキャビンでゆったり寛ぐ」。これは佐野造船所が主眼を置く建造ポイントだ。
今回の30FB Offshore Fishing Cruiserも23 Offshore Fishing Cruiser同様、アフタークルーズの快適性を追求している。
同艇の建造過程の撮影は2019年から行ってきたが、日を追うごとにマホガニーの使用量が増えていくのには驚かされた。メインサロンもバウバースもギャレーも、目に付くところすべてにマホガニーが惜しみもなく使われているのだ。
「マホガニーに包まれたキャビン」という表現はけして大袈裟ではない。建造終了後のリポートでは、そのすべてをご紹介する。
個人的な意見だが、マホガニー色のキャビンで呑む酒は、ワインもスコッチもバーボンもついでに芋焼酎も、なぜだかうまくなるし酔いもはやくなる。

2月のエンジン搭載の直前、佐野造船所にSANO 23 Offshore Fishing Cruiser と30FB Offshore Fishing Cruiserの2艇が並んだ。剛性度が高く、外洋での走航性能に定評のあるハル形状は一緒ながらも、ハードトップ艇とFB艇という決定的な違いがある。だがひと目で姉妹艇とわかる。これはOffshore Fishing Cruiserシリーズの設計の基本コンセプトが明確だからだ。
そこには、より美しい艇体を求める佐野社長のこだわりもある。
例えばキャビンルーフの高さや、そのルーフからサイドデッキへと続く滑らかな下降曲線も、1mm、1度単位で見直しを行ってきた。FB形状やフロントウインドウの立ち上がり角やサイズなどもそうだ。あらゆる箇所を自身の審美眼を信じて形としてきた。紙の設計図とは別に第二の設計図が佐野社長の眼にはある。
建造者のこだわりが名艇を生む。
佐野造船所のOffshore Fishing Cruiserは、注目を集めるカスタムシリーズだ。

次回、進水、試走の様子を細部の情報とともにお伝えする。
大型の電動リールのためにマホガニーで造ってしまった豪華台座。これは一見の価値がある!

佐野造船所の新造船SANO 30FB Offshore Fishing CruiserにHondaBF250Dが2基搭載されたのは2022年2月22日(午後2時2分に撮影)。設計と建造を担われた佐野龍太郎社長(右)が搭載作業中。

鏡面仕上げのような外板塗装を終え、直後にBF250Dを搭載。

デザイン上、柔らかな曲線(アール)を持たされたトランサムは12mm厚のマリングレード合板を4枚合わせて48mmの厚みがある。キールとペラが平行になるようにエンジンを取り付けるために、トランサムボードに外側が厚く内側が薄い変形台形のエンジンベースが加えられた。写真は2022年1月に撮影したもので、このあと塗装が行われた。

2021年7月29日。まだFB(フライブリッジ)が無く、ハードトップ形状のNew30。

2021年9月、FB(フライブリッジ)が取り付けられ、全体像が見えてきた。

この写真はSANO 23 Offshore Fishing Cruiser。今回の30FB Offshore Fishing Cruiserの姉妹艇にあたる。エンジンはBF225Dが搭載されている。

ワンオフで建造された2艇のSANO Offshore Fishing Cruiser。左が23 Offshore Fishing Cruiser、右が30FB Offshore Fishing Cruiser。姉妹艇だ。

アフトデッキに収められた燃料タンクは760リッター(右方向がバウ、左方向がトランサム)。タンク前にジェネレーター用の大きなストレージがある。アフトデッキ下には燃料タンクに加えて、清水用の100リッタータンクと50リッターのジェネレーター用の軽油タンクが収まっている。

米国ノーザンライツ社の舶用ジェネレーター。日本での生産は大洋電機株式会社が行っている。写真は専用サウンドシールド(オプション)が取り付けられた状態。

デッキサイドの油圧ステアリングはユニカス製。特注で銀メッキ仕様に。アッパーとメインのステアリングはウッドになるそうだ。リモコンレバーは日発モース製。デジタルメーターはフルノの自動操舵装置(オートパイロット)。アッパーとメインにはHonda純正マルチディスプレイが自動操舵装置と並ぶ。次回進水時リポートの際に各コントロールステーションの詳細をお伝えする。

2021年5月に撮影した建造中のキャビン。ルーフはまだなく、オープンクルーザーのような写真だ。この段階ですでにマホガニーには下塗りが施されている。バルクヘッド手前、右舷側がメインステーション位置。バウデッキにはフレームが組まれているがまだデッキ材は張られていない。

キャビンドアはスライド開閉式でマホガニーが使われた。刷毛で下塗りを施しているのは佐野社長。2021年7月の撮影でフライブリッジはまだ取り付けられていない。

取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎