OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2019.06.28
名匠一族の新たなる挑戦 23

新たなプロジェクトに活気づく佐野造船所
新造船、リグビーの建造と、フルレストア。
同時進行する3つのプロジェクト

BF225D二基掛け仕様の、29フィートフィッシングクルーザーの建造開始!

29フィートフィッシングクルーザーのフレームが立った。素材はラワン材だ。

29フィッシングクルーザーをオーダーされたのは、写真の武蔵丸のオーナーさんで、コンセプトは武蔵丸から新造船に受け継がれる。

サノ25ランバウトの納艇が終わった後、佐野造船所ではさっそく次のプロジェクトが始まり活気に溢れている、新たなプロジェクトを紹介すると、まずひとつが29フィートのフィッシングクルーザーの建造だ。
これは今年のボートショーでHondaブースに出展し、お洒落なフィッシングボートとして話題となったサノ23フィッシングクルーザーの武蔵丸(» 参考記事はこちら)を所有されていたオーナーが、佐野龍太郎社長による設計・建造という条件で、武蔵丸よりひと回り大型艇をオーダーされたものだ。
充分すぎる艇体強度、圧倒的な凌波性、木造船ならではの柔らかな乗り心地などなど、サノブランドのボートが持つ「味」が詰め込まれた武蔵丸に惚れこんだオーナーが、さらに釣行範囲を広げるために新造船の発注を決意された。
基本的には武蔵丸のコンセプトを守りつつ艇体のサイズアップを図り、今回はフライングブリッジを設けることとなった。主機はHondaの新型船外機、BF225Dを二基掛けとする予定だそうだ。
5月末にはラワン材によるステム(水押)とフレームが立ち(写真参照)、ボトム形状をイメージできるところまで造りこまれ、6月に入って早々、12mm厚のマリングレード合板を4枚合わせて48mm厚とした巨大なトランサムのベースが完成。トランサムに仮止めされた。BF225Dを二基受け止めるこのトランサムボードの幅は2.85mある。ちなみに全長は前述したように29フィートで、全幅は3.2mということだ
この29フィートフィッシングクルーザーの完成は2020年度中で、お披露目は2021年のボートショーを予定している。建造の進捗状況は随時ご紹介していく。

新造船のために描かれた原図を基に、型紙を起こしていく佐野社長。
ステム(水押)を加工する佐野社長。
新造船に使う木材が到着。佐野社長の後方に立てかけられているのは、その新造船用に制作されたフレームだ。
組まれたフレームに合わせてバウ部分の部材を張り合わせていく。大きく弧を描く部材だ。そのためには写真右のような木から切り出すのが効率的なのだそうだ。
6月に入り、トランサムが完成。12mm厚のマリングレード合板を4枚合わせ、48mm厚としている。BF225Dが二基搭載されるトランサム幅は2.85m。

BF250Dの搭載が決まり、フルレストアが始まったサノ24ランバウト

上架された24ランバウトのフルレストアに入る佐野社長(左)と、ともに9代目を担う弟さんの佐野稔氏(右)。

そしてもうひとつのプロジェクトが、ホンジュラス・マホガニー製のサノ24ランバウトのフルレストアだ。2007年に建造された24ランバウトは、前オーナーが手放されてからしばらく佐野造船所の桟橋に舫われていたが、新たなオーナーが決まり、納艇のためのフルレストアという作業が開始された。この作業は龍太郎社長の弟さんで、ともに佐野造船所の9代目を担う稔氏が中心となって行う。
上架された24ランバウトはクリートやマリンホーン、航海灯などのデッキ上の付加物がすべて取り外され、さらにはステアリングやメーター類、アクリル製のウインドウも外されて、まずはマホガニー製の艇体の状況確認から作業がはじまった。
またエンジンも現状ではBF225が搭載されていたが、ホワイトボディの新型船外機BF250Dに新オーナーの意向で換装されることになった。フルレストアの完了は今年度中を予定し、お披露目は2020年のボートショーになる。こちらも随時ご紹介していく。

リグビー(左)と並ぶ24ランバウト。
24ランバウトのフルレストアは、稔氏が中心となって行われる。
稔氏はバウのブルーワークを外し、佐野社長はインパネ下に潜り込む。

インパネデザインが決まったリグビー

インパネデザインとウインドフレームに大きく悩んだ龍也氏だったが、イタリアから帰国し、早々にデザインを決定。フラットなダッシュボードとした。フェイシアにはホンジュラス・マホガニーが使われるので、フラットなダッシュだと美しさが際立ちそうだ。白いシールがインパネに貼られているが、BF250 専用のデジタルメーターを入れ込む位置を示唆している。ただしメーターが一個になるのか二個になるのかは決まっていない。予定する船外機二基掛けだとメーター一個で済むからだ。次回メーターについて触れたいと思うが、高機能さに注目が集まるHondaの純正デジタルメーターは、一個で船外機四基のデータを管理できるから凄い。
トランサム位置からウインドフレームを見ると、弧を描いているのがわかる。この形状はデザイン段階で龍也氏がこだわったポイントだ。

そして3つ目のプロジェクトが、31ランナバウトのリグビーの建造だ。
作業を一歩進めるごとに常に悩みと格闘しているという龍也氏だが、最近の作業でもっとも苦慮した箇所が、フロントウインドウのフレーム角とインパネのデザインだろう。
フロントウインドウを俯瞰で見ると、両舷の端から端まで届くそのフレームは、柔らかな弧を描き、サイドフレームへと続いている。ここまでのデザイン決定は早かった。高さについても龍也氏の身長(というよりも座高)合わせで、もっとも視界が確保され、風防の役を果たす高さを確保すればよいわけで、これはほぼ即決。フロントとサイドをつなぐピラー角も、割と早い段階で決まった。問題はサイドフレームだ。サイドフレームのデッキ面からの立ち上がり角については、端材で造ったフレームで試作を繰り返した。つまりこの箇所にランナバウトとして特別な決まりごとはなく、角度を深くしてフレームを短くしても、あるいは逆に角度を浅くしてフレームを長くしても、実はどれも正解。決めるのは建造者である龍也氏の感性だ。
同じようにインパネのデザインに悩む姿も見てきた。試作段階ではメーター類を収める半楕円形状のメータークラスターパネルを設けるというものだった。この試作がしばらく動かなかったので、デザインは決定したものと思い始めていた。しかし5月に入りイタリアを旅してきた龍也氏は、いきなりデザインを変更した。ナビシート前からドライバーズシート前までのダッシュボードをフラットにし、メータークラスターパネルを撤去した。ではメーター類はどこに設置することになったのかというと、ステアリングサイドのパネル。イタリアで時間が許す限り様々な船に乗り、見てきたという龍也氏は、超シンプルなデザインに行きついた。「いろいろ考え過ぎてしまった」と自戒するのだが、実はこのデザインは、フェイシアに使用するホンジュラス・マホガニーの美しさを前面に押し出す方策のひとつだと、龍也氏は気付いたのかもしれない。
「GPSは?」という質問に、「オンダッシュ」という答が返ってきた。
フラットなダッシュ内にGPSモニターを完全に沈めて平時は全く見えなくし、航行時にボタンひと押しで、スルスルせり上がってきて顔を表すというギミックを考えているらしい。電動を考えているらしいが楽しみな仕掛けだ。
サイドウインドウのフレーム角も、イタリアから帰ってきてサッと決まった。
次回は、ステアリング奥に埋め込まれることになったBF250専用のデジタルメーターについてご紹介する。その機能の高さは驚きだ。

先月までは、この写真のようにメーターを収めるのは半楕円形状のメータークラスターパネルだった。中央にGPS、その両脇に船外機用のデジタルメーターを想定していた。
イタリアから帰国し、いきなりクラスターパネルを撤去。
当初はこのようなデザインのインパネだった。半円形に付き出ているのは、ステアリングの受けだったが、これも撤去されて船外機のリモコン用に使われるようだ。
半円形のボックスをリモコンベースとして、写真の位置に考えている。
ウインドウフレームのピラー角度をどうするか、これも悩みだった。
ダミーの部材でウインドウフレームの高さ、ピラー角を試す龍也氏。
サイドウインドウ用のフレームも様々な角度を試した。
ようやくピラー角とサイドフレームの長さが決まった。写真ではまだ試作用の端材が使われている。
取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎