OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2015.07.29

人気釣り具の生みの親は、
猪苗代湖船舶安全協会の会長

自然を愛する人
そのボートは、芝張りの2千坪の土地に建つ倉庫の中に保管されていた。
場所は会津若松市郊外の山中。驚くのは、その敷地の中央にヘリポートがあることだ。どうやら高木氏の頭の中には、ヘリポート付きのキャンプ場構想があるらしい。絶え間なく聴こえる鳥の囀りと、敷地の端を流れる沢の爽やかな水音に、桃源かくあるべしと酔っていると、「バンガローはここ。風呂場とトイレも含めて5棟。こっちには池。水量調整ができて、こどもたちが魚のつかみ獲りができるような池。その魚をバンガローの前で焼いて食べるわけ。いいだろう」という、高木氏の声が聞こえてきた。計画はかなり具体的だ。
2千坪の敷地にヘリポート。稜線が左に落ちたあたりがヘリの進入路となる。
BF50をセットした愛艇。いまは山の中の倉庫に。
BF50を搭載したボートで、猪苗代湖や桧原湖、さらには十和田湖などで曳き釣りをしてきた。
高木氏愛用のルアー。すべて自身が製作したものだ。
「ここにバンガローを建てたい」と夢を語る高木氏。
高木氏の志向は、常に湖に向いているものとばかり思っていた。 長年ヨット乗りとしてレースを楽しみ、またその運営も120kmでかっ跳ぶことのできる名艇、DONZIを駆って行い、ワカサギ釣り名人として機能的な商品を次々と開発してきた人だ。それに会津若松名物のソースかつ丼を人に振る舞いながら、「おれは猪苗代湖が大好きだからね」と声高に話したりもする。それだけで、わたしとしては多少短絡的だが「高木さんは、湖とともに生きる人」と思い込んでいた。
ところが違った。彼の目は、山にも、樹にも、沢にも向けられていた。猪苗代を包む自然そのものを愛する人だった。
2千坪の敷地のど真ん中に立ち、周囲を囲う稜線を見渡していると、高木氏から一本のモミジを植樹したのだと聴かされた。風景を考えて、ピンポイントで植える位置を決めたそうだ。そして稜線が唯一切れるところを指さし、そこがヘリの進入路であることをわたしに教えた。ちょうどモミジの真上だ。パイロットは眼下にモミジを眺めなら、キャンプ場のサークルHにアプローチすることになる。紅葉するモミジが進入灯がわり。やはり高木氏は洒落たことを考える人だった。
20年前、猪苗代湖湖畔で撮影させていただいた高木和則氏。
当時48歳。
取材協力:有限会社カズ
福島県会津若松市慶山1丁目10-27 TEL:0242-26-6262 FAX:0242-26-7493
文・写真:大野晴一郎
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