OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2015.07.29

人気釣り具の生みの親は、
猪苗代湖船舶安全協会の会長

猪苗代湖でBF8を操縦する高木和則氏。写真は1996年5月に撮影。
K-ZANブランドのプロデューサー
20年ほど前のことだ。
「淡水で釣りをするなら、これがいい」と言われて貰ったルアーは、真珠養殖の母貝にもなる白蝶貝の内面を削って造られたものだった。白蝶貝といえば、高級腕時計の文字盤や、あつらえたワイシャツのボタンに使ったりするものだ。つまり、とても高い。その身は帆立貝ほど美味くはないが、貝殻は別物。最高級品として扱われている。それがルアーになってしまったのだから驚かされた。手のひらの中のルアーは、室内の僅かな灯りにも反応し、真珠色のボディの中に赤と緑のハイライトが走る。これが光の弱い水中で、魚に向けてアピールをするわけだ。シェルルアーと名付けられたそのルアーが逸品であることは、疑う余地が無かった。
一番左のルアーが以前貰った白蝶貝。中央のルアーは最新作で、やはり白蝶貝。右は日本アワビ。このルアーは釣果実績がある。
1996年5月、猪苗代湖に集結したBFエンジン。
シェルルアーを製作したのは、福島県会津若松市で(有)カズを経営される高木和則氏だ。
船外機や除雪機などのHondaの汎用製品を仕入れ、販売している。同時に高木氏の名は、釣りファンに広く知れ渡っている。人気釣り具ブランドK-ZANの生みの親だからだ。その中でも、ゴールド・シルバー研磨竿先は、ワカサギのほのかなあたりを確実に捉える竿先として、釣り人たちから高い評価を得ている。驚かされるのはそのバリエーションだ。全長12種類、竿調子5種類、ウエイト調子12種類、材料厚4種類、ボディ幅2種類が用意され、組み合わせによるバリエーションは5760種類にもおよぶ。おまけにゴールドとシルバーと特性の違う2種類の素材が用意されているから、バリエーション数は単純に2倍ということになる。
研磨竿先を並べてみた。微妙に調子が違うのがわかる。ウエイト負荷に幅はなく、それぞれの竿先に下げるウエイトは決められている。
日本中にファンがいるというK-ZANの研磨竿先だが、特に特別受注製作品が注目を集めているそうだ。特別受注製作品。つまりカスタムメイドの竿先だ。
その注文方法は独特で、電話やファクスなどでは一切受け付けておらず、客が求めている竿先の調子や予定する釣行などの基礎情報を、高木氏が客と会って確認した上で製作が始まる。完成はおよそ2週間後。研磨を終えた数本の竿先が客の前に並べられるのだが、それぞれ注ぎ込まれた個性が違う。客はそれを手のひらや指先を使って確認し、「我が一本」を絞り込む。最後には客の感性が竿先を選ぶと信じる高木氏は、この選択儀式に口は挟まないことにしている。
今年(2015年)7月、久しぶり高木氏を訪ねた。20年近い無音だ。義理を欠いた弟子が怖い師匠の家の敷居を跨ぐような心境で、会津若松に向かった。

猪苗代湖の将来を考える高木氏のもう一つの顔
2馬力のBF2をセットしたゴムボートやスノーモービルを囲うように、研磨竿先や電動リールなどの人気商品が整然と展示される(有)カズのオフィスは、ひと目でK-ZANブランドの総本山だとわかる。もちろん20年間進化し続けたシェルルアーもある。白蝶貝、日本アワビ、夜行貝など、13種類の貝が様々な形状のルアーに削られ、飾られている。ひと言で言って、釣り人天国のようなオフィスだ。そして壁面を見れば、そこには額入りの何面もの感謝状が飾られている。いずれも地元猪苗代警察署や会津若松警察署から贈られたもので、「猪苗代湖における水難救助活動と水難事故防止活動に貢献した功労を讃える」とある。実は、高木氏は猪苗代湖船舶安全協会の会長としての顔も持っている。
7月11日には、猪苗代湖船舶安全協会と猪苗代警察署、猪苗代消防署が、「猪苗代湖における船舶の安全航行」を呼びかける行事を合同で行っているのだが、そこに安全協会の会長としての高木氏の姿もあった。
猪苗代湖船舶安全協会は、高木氏らが発起人となって15年ほど前に発足。 船舶事故を撲滅し、誰もが楽しめるゲレンデを次世代に残そうと考えてのことだ。 重大事故が多発すると、さらなる規制がかかり、楽しく遊べるゲレンデを残せないのではないか。環境保全という意味でも、今、真剣に取り組まねば、次の世代に問題点を残すことになってしまうのではないか。そんな懸念を抱いた高木氏は、自分にできることは何かと自問。その結果が猪苗代湖船舶安全協会の立ち上げだった。
有限会社カズ。
店内にBF2をセットしたゴムボートも展示される。
モデルは半袖だが、本来このテントは、厳冬下のワカサギ釣りに使われる。K-ZANオリジナルの電動リールを装着した研磨竿先を、左右に配置したワカサギ会津桐タンスという物入れの天板に載せ、あたりを待つ。暖かく、楽そうだ。アイデア豊かな高木氏の提案だ。
猪苗代湖船舶安全協会の会長でもある高木氏。
何面もの額入り感謝状が店内に飾られている。
「われわれには機動力がある。事故が発生したと一報が入れば、安全協会のメンバーが、然るべきマリーナから高速で現場へ急行することになっている。しかも広い湖面は碁盤の目状に記号化し、事故の位置情報など速やかに伝達ができるようにしてある」のだそうだ。その機動力が買われ、トライアスロン大会のスイムコースの設営や警備などの依頼もある。 そのときは、乗ることが少なくなったという愛艇を駆り出す。環境性能が高く、特に低燃費であることに惚れこんで購入したBF50がマウントされるボートだ。以前は、そのボートで猪苗代湖はもちろん、十和田湖や桧原湖などで曳き釣りをよくやったそうだ。
1996年5月。猪苗代湖を行く高木氏。
取材協力:有限会社カズ
福島県会津若松市慶山1丁目10-27 TEL:0242-26-6262 FAX:0242-26-7493
文・写真:大野晴一郎
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