近年、都会の釣り場で利用する人が増えている電動アシスト付き自転車(e-Bike)。クルマだと気になる駐車料金がかからず、小回りも利き、電動アシストのない自転車だと躊躇する距離や坂道もラクに移動できてしまう。身近な釣り場へのアクセスが自由になれば、釣りの楽しみは間違いなく広がる。そんな釣りを実際に楽しんでいるアングラーの1日に密着した。
大都会と相性のいい釣り
東京や横浜といった居住者人口も多いベイエリアで、さまざまな制約を気にせずに楽しめる釣りに「クロダイのヘチ釣り」がある。
ヘチ釣りは、もともとは渡船を利用して行く沖堤防(おきていぼう)で楽しむ釣り。そこで自分のすぐ足もとである「ヘチ(=岸壁の際)」にカニやカラスガイといったエサを落として行き、クロダイに食いつかせるという釣り方が名前の由来になっている。ただ、最近はより身近なオカッパリの釣り場でも楽しめるチャンスが増えた。
一番の理由は、はっきりとした理由は定かではないのだが、東京湾にいるクロダイの数が明らかに増えたことだ。平均海水温の上昇が影響しているともいわれるが、これまでねらって釣れるほどの数が見られなかった都会の親水護岸、運河、あるいは海辺の公園などで、以前よりクロダイが釣れやすくなってきたのだ。さらに足もとをねらうというヘチ釣りのスタイルが、「振りかぶって投げる釣りは禁止」という、都市部で増えている釣りの禁止事項に抵触しないことも、楽しみやすさを後押ししている。
「都会の釣り場」×
「電動アシスト付き自転車」のメリット
針生兼朱さんは、熱心なヘチ釣りアングラー。子どもの頃から父親に連れられて海釣り公園などに行っていたが、ある日、見たことのないサオとリールで、その釣り場で一番の大物であるクロダイを釣っている大人を見て、その姿にすっかり魅了された。
やがてヘチ釣りという釣りがあることや、地元の横浜にはオカッパリでもクロダイがねらえる場所があることを知るが、横浜市内でも山側にある自宅から、釣り場となるみなとみらい地区までは直線距離で4kmほど。実際の移動距離はもっと多く、途中の坂道も多いので、電動アシストのない自転車では行きは良くても帰りは大変。あとはバス(または電車)で行く手はあったが、それだと広範囲にちらばっている釣りのポイントを自由に見て回ることは難しかった。
みなとみらい地区は街中の舗装が行き届いているので、自転車での移動がしやすいといった面もある。それでも「電動アシスト付き気自転車がなかったら、今のように自分の足でいろいろなポイントを見つけるのは難しかった」と針生さん。東京方面から遊びに来る釣り仲間にも、うらやましい環境だとよく言われるそうだ。その都内でもヘチ釣りファンの電動アシスト付き自転車利用は間違いなく増えているという。
クロダイを探して北から南へ
押して、漕いで、
ヨコハマのど真ん中を移動
朝一番にサオをだしたぷかり桟橋では、エサのカニが齧られる小さなアタリがあったものの、魚の活性がまだ低いのかヒットには至らなかった。そこで次は横浜市役所のすぐ横を流れる大岡川へ移動する。
クロダイ釣りでは、よく釣れる実績のあるポイントでも、その日の潮位や風向きによって魚の活性の上がる時間帯が変わる。釣り場をどう回るか頭の中でシミュレーションしながら、タイミングよく可能性の高い場所に入ることが大切だ。
その後もサオを下ろして魚の反応を探り、アタリがないと思えば見切りながら、横浜ハンマーヘッドの周辺、赤レンガパークの護岸帯と、次々にポイントを変えていった。その間、背後にはランドマークタワー、大観覧車、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル、赤レンガ倉庫など、いかにも横浜らしい景観が次々と現れる。
なお、みなとみらい地区の遊歩道や公園は、自転車は押し歩きがルール。それらの案内はあちこちに案内板が出ているが、一気に移動したい場合は釣りのポイントから一度離れて車道に出てしまったほうが早い。