八木 健介 氏
月刊『FlyFisher』編集長
八木 健介 氏
編集アルバイトとして2001年から月刊『FlyFisher』の製作に参加。その後、副編集長を経て2010年10月から編集長を務める。休日の釣りは専らフライフィッシング。近所のコイ釣りから、渓流のヤマメ・イワナ釣り、本流のニジマス釣りと、フィールドに合わせた旬の対象魚を追う。

雪の残る川で迎える解禁

フライフィッシングには、この季節、この場所だから、という風物詩的な釣りがいくつかあります。中でも、岐阜県の郡上地方で盛んな「シラメ釣り」はそのひとつ。
長良川の解禁風景。寒い年には雪の中での釣りになることもある
長良川の解禁風景。寒い年には雪の中での釣りになることもある
秋から冬にかけての禁漁期間が終わりに近づくと、本州では岐阜県や長野県の川が2月にいち早く渓流解禁を迎えます。渓流釣りが何月から楽しめるかは、都道府県や川ごとによって異なるのですが、全国的にはもう少し暖かくなる、3月や4月から川開きとなる場所が多いのです。そんな中で、毎年2月1日から釣りのできる長良川(岐阜県)やその支流の吉田川には、中部地方やそのほかのエリアからも、魚とのやりとりを待ちきれないフライフィッシャーがやってきます。
ウロコが銀色になったシラメ(サツキマスの幼魚)
ウロコが銀色になったシラメ(サツキマスの幼魚)
長良川の釣りといえば、夏場が本格的なシーズンになるアユ釣りが有名ですが、そのほかにもうひとつ、アマゴとシラメの釣りも非常に人気があります。アマゴはヤマメの近縁種にあたるサケ科の渓流魚で、ヤマメがサクラマスの陸封型(海に下らずに一生を川で暮らすタイプ)であるのに対し、アマゴはサツキマスの陸封型です。そして、シラメとはアマゴと違って海に下る準備をしたサツキマスの幼魚のことをいいます。長良川は本来、サツキマスが全国でも非常に多い川として有名でした。そのサツキマスは親魚が川の上流部(渓流)で産卵すると、稚魚が一年ほど川で過ごし、やがて一生のうち数ヵ月を海で生活するために川を下り始めます。この時、サケ科の魚特有の現象として、20cmほどに育った幼魚は全身がピカピカとした銀色のウロコに覆われるのですが(この現象をギンケという)、このタイプになったものを「シラメ」と呼ぶのです。
現在、河口堰の問題などもあり、長良川で釣れる天然のサツキマスの数は非常に少なく、かつ本来のシラメも減少しているのですが、そのほかに漁協によって養殖されたシラメやアマゴが放流されており、これらの魚は春先から大きなプール(川の中で水がたまり大きな淵となっているところ)でライズするため、ドライフライを使った釣りができるのです。

小さなフライで釣る

この時期、シラメやアマゴが食べているのは、ユスリカというごく小さな水生昆虫のサナギ(ピューパ)や成虫(アダルト)です。ユスリカはたくさんの種類がいるのですが、幼虫は川底で生活しており、それが一定の期間をへるとサナギとなって水面まで泳ぎ出て、そのまま水面で羽化して成虫になります。生息量が多いこと、低水温の時期でもたくさんの羽化があることから、魚たちにとっては寒い季節のごちそうであり、それらを食べるために水面に口を出して捕食(=ライズ)をするため、ユスリカを模したドライフライでの釣りが可能になります。
ユスリカを模したミッジフライの数々。水面にぽっかり浮かぶものや、水面からぶら下がるように浮くものなど、いくつかのタイプがあるので魚の反応を見ながら使う
ユスリカを模したミッジフライの数々。水面にぽっかり浮かぶものや、水面からぶら下がるように浮くものなど、いくつかのタイプがあるので魚の反応を見ながら使う
ユスリカを食べているシラメ・アマゴをねらうためのフライは長さが5mmほど。フライフィッシングではユスリカのような極小の虫のことを「ミッジ(midge)」と呼び、ミッジフライを使った釣りのことを「ミッジング」と呼ぶのですが、ミッジングでは結ぶティペット(イト)も非常に細いものになります。

また、魚は一日中ライズしてユスリカを食べているわけではなく、今の季節でいえば、水温が上がるお昼前後にユスリカが羽化を始めると、そのタイミングに合わせてシラメやアマゴたちのライズが起きます。その頃によさそうなプールに入り、ライズが起きるのを待って、ライズを見つけたらその魚のやや上流側にミッジフライをキャストする。これがシラメねらいのミッジングの基本的な釣り方になります。

今年の出だしは好調

全国的に雪が多い今年ですが、解禁を迎えた長良川周辺は川岸には積雪があるものの、道路はスタッドレスタイヤがなくても問題ない程度。有名ポイントでは安定したライズがあり、支流の吉田川を含めて、シラメ、アマゴが取り交ぜて釣れているとのことです。

おすすめのタックルは、ロッドがやや長めの9フィートで#4~6のもの。ラインはウエイトフォワードのフローティングラインでロッドに合わせた#4~6。リーダーシステムは全長で16~18フィートですが、水面が穏やかなプールでライズをねらう釣りは魚からティペットがよく見えるため、8~10Xの細いタイプにします。リーダーはナイロンリーダーでよいですが、ティペット部分についてはナイロン製よりも水になじんで魚に警戒されにくいフロロカーボン製のほうがよいという人も多いので、できれば両方を用意しておくとよいでしょう。
長良川の支流である吉田川もシラメ釣りの有名ポイントだ
長良川の支流である吉田川もシラメ釣りの有名ポイントだ
春先の川で出会うライズは、シーズンの幕開けを告げる自然のサイン。見つけた時は心が浮き立ち、そこに繊細なフライを巧くキャストすることができれば、吸い込むような波紋とともにフライが消えて、小気味よい引きを味わうことができます。

3月になってほかの川も解禁を迎える前に、腕試しも兼ねて長良川に出かけてみるのはいかがでしょう?
今回ご紹介したエリア
岐阜県/長良川・吉田川のシラメMAP
アクセス
東海北陸自動車道・美並ICもしくは郡上八幡ICを降りR156沿いの各ポイントへ。支流の吉田川も釣れる。
※このコンテンツは2011年2月の情報をもとに作成しております。
※環境省レッドリスト等の掲載種については、法令・条例等で捕獲等が規制されている場合があります。必ず各自治体等の定めるルールに従ってください。