山根 和明氏
月刊『つり人』 編集長
山根 和明氏
1994年つり人社入社。2006年より月刊『つり人』編集長を務める。渓流釣り、アユ釣り、磯釣り、沖釣り、コイ釣りなどなど四季折々の釣りを楽しむ。コイ釣りニュースタイルマガジン『Carp Fishing』、渓流釣り専門誌『渓流』、トラウトルアー専門誌『鱒の森』編集長を兼務。

釣りは鮒に始まり鮒に終わる

桜ブナ、桜バヤ、桜ダイ、花見ガレイといったように、桜の開花とともに好機を迎える釣りは少なくありません。暦の上では2月4日から春ですが、実際に春を感じさせる陽気が続くのは3月になってから。水温が上昇するのは陸上よりも1ヵ月以上遅れますから、ちょうど桜が咲く頃、魚たちが待ち望んだ春が水中の世界にも訪れるというわけです。

「釣りは鮒に始まり鮒に終わる」という格言をご存じでしょうか。鮒とはマブナのことで、昔は日本人にとって最も身近な魚だったのです。子どもたちは手始めにマブナを釣り、ある程度経験を重ねると、いろいろな魚を手にしたくなります。

海、川、湖沼を釣り歩き、さまざまな魚と出会い、マブナとはすっかり疎遠に。やがて老いとともに行動範囲が狭くなったとき、近所の小川で自分を釣りの世界にいざなってくれた魚に再会します。そして老いたベテランは、フナ釣りの奥深さに初めて気付くことになるのです。すなわち、「鮒に終わる」というわけです。

水郷柳川は我が釣りのふるさと

川崎で生まれ育った私のホームグラウンドは多摩川でした。当時は多摩川の水質汚濁が最も激しかった時代でしたが、場所によってはマブナが少し釣れました。1日に平均で2~3尾だったでしょうか。帰る道すがら、「九州のばあちゃん家に行けば、力いっぱい釣れるから今度一緒に行こう」と私は友達によく豪語したもんです。
懐かしい川の風景が、町のいたるところにあります
懐かしい川の風景が、町のいたるところにあります
母の郷里が福岡県の柳川で、中学に上がる頃まで夏休みや春休みの大半を私は柳川で過ごしました。北原白秋は「水郷柳川は我が詩歌の母体である」と言ったそうですが、私の場合、「水郷柳川は我が釣りのふるさと」と言えます。
堀割にはタナゴも多く、ヤリタナゴ、アブラボテ、カゼトゲタナゴなどが春はよく釣れます
堀割にはタナゴも多く、ヤリタナゴ、アブラボテ、カゼトゲタナゴなどが春はよく釣れます
柳川は南を有明海、西を筑後川、東を矢部川に挟まれた沖積平野で、日本の原風景のようです。田んぼの間を縫うように張り巡らされているのが掘割(用水路)です。幅は1m程度のものから10mくらいのものまでさまざま。地図を見れば一目瞭然ですが、この掘割が毛細血管のように市中を流れています。その総延長たるや930km、なんと市域面積の12%が掘割なんです。
掘割にはマブナ、コイ、ヤマベ、ウグイ、ライギョ、タナゴなどがいます。特に好きだったのがマブナで、小学生の頃でも毎日のように20~30尾を釣っていました。大学に入った頃から、すっかり足が遠のいていましたが、2007年の春に久しぶりにサオをだす機会に恵まれました。
魚はまだいるだろうかという一抹の不安がありましたが、「小ブナ釣りしかの川」のような素掘りの小川で、愛らしい銀鱗が次々に水面を割ったのです。懐かしい友達に会ったような淡い感動に包まれながら、時を忘れて釣りまくりました(笑)。
これが柳川のマブナ。傷ひとつない銀ピカの魚体
これが柳川のマブナ。傷ひとつない銀ピカの魚体
かつてはどこにでもいたマブナですが、岸辺の護岸化などにより、都市近郊の河川から姿を消してしまいました。残念ながら今はもう、釣りの入門ターゲットではなくなってしまったのです。そんな現代にあって柳川は、マブナの最後の楽園といえるかもしれません。

私の釣りがいつ終わるのか分かりませんが、「最後は柳川の掘割で」と思っています。
今回ご紹介したエリア
福岡県/柳川のマブナMAP
アクセス
九州自動車道をご利用の場合

 福岡ICから八女ICまで30分、
 八女ICから柳川市まで30分

 熊本ICから南関ICまで30分、
 南関ICから柳川市まで40分

 佐賀大和ICから柳川市まで60分

 大分ICから八女ICまで1時間30分、
 八女ICから柳川市まで30分
※環境省レッドリスト等の掲載種については、法令・条例等で捕獲等が規制されている場合があります。必ず各自治体等の定めるルールに従ってください。