WING - 1977.12

WING GL500
WING GL500
 
HONDA WING GL500の技術説明


a.V型2気筒水冷エンジン

高性能エンジンに不可欠な〈高い圧縮〉と〈良い燃焼〉の2つの要素を満すために、冷却効果の安定している水冷方式を採用しました。しかも、冷却機構はエンジンとの一体組込みによる新水冷システムを採用することで、従来の水冷エンジンのようにかさばって重いという欠点を排除。空冷エンジンと同じように小型軽量に仕上げられています。
冷却効率の良い水冷方式を採用しているため高出力ながらも、耐久性、静粛性に優れ、長距離走行を容易で快適なものにしています。
気筒は80度傾斜のV型に配置されています。このタイプは、(1)本質的に振動が少なく(2)エンジンの高さを低くすることができます。このV型エンジンの持つ特長を最大限に活かして静かで小型軽量、取り回しの良い2輪車にまとめました。

V型2気筒水冷エンジン   V型2気筒水冷エンジン


b.縦置きシャフトドライブ式

エンジンはクランク軸方向と車両の進行方向とが同じ縦置きに搭載、シャフトドライブ駆動方式の採用を容易にしています。
クランク軸で発生する回転反力は、高速で逆回転する大質量のクラッチとドリブンギヤで相殺されて、ほとんど感じません。また、フライホイールは0.45kg-cm2/ccという大容量のもので同排気量車の約1.5倍。低回転から高回転までなめらかなエンジン出力を得ています。
縦置きシャフトドライブ式
シャフトドライブ式を採用したことによって耐久性に優れ、静かで、チューン調整などの整備にわずらわされることがなく快適な長距離走行に必要な要件をそなえています。


c.無接点のC.D.I.点火装置

点火装置には、ショートストローク、4バルブ(気筒当り)の特長を十分に引き出すことと点火系の故障や劣化を防ぐためにC.D.I.(容量放電点火)方式を採用しました。C.D.I.とはCapacitive Discharge Ighitionの頭文字。このC.D.I.方式は、パルス(持続時間の短い電圧の波形で、一定の周期を繰り返す)を利用して点火時期を低・中・高速の三段階の回転に応じて制御する電気的無接点方式です。

C.D.I.方式の特長
  1. 電気的な無接点方式のためポイント関係の故障や劣化がありません。
  2. 2次電圧の立上りが早く、プラグの汚損(クスブリ、カブリ)に対して強い。
  3. 点火電源が交流(AC)なので蓄電池の充電状態に関係なく一定の火花電圧が常に得られる。
  4. 進角特性は、機械的ガバナーを使用していないので、特性上の劣化はなく、所定の特性が保障される。
  5. 特別な調整作業の必要がなく、取扱い整備が簡単である。

C.D.I.方式


d.22度ツイスト(ねじれ)型シリンダーヘッド

それぞれの気筒に31m/m×2個の吸気弁と、27m/m×2個の排気弁を持つペントルーフ(屋根)型燃焼室を採用。内径78×行程52m/m、回転があげ易く、機械的摩擦抵抗が少ない超ショートストロークです。圧縮比10:1で1L当り100馬力近い48馬力の高出力を実現しています。
この高回転、高出力を得るために、2個のシリンダーヘッドを、クランク軸方向に対して22度外側にねじった角度としています。このことによって混合気は気化器-吸気管燃焼室-排気管と一直線に流れる理想的な配列となりました。この結果、混合気の流れは途中で方向慣性を変更されることがないので吸排気効率が高まり、軽快な走りに必要な高出力を達成し得ました。

22度ツイスト(ねじれ)型シリンダーヘッド

吸排気弁を開閉するカム機構には、1本のカムシャフトで4本の特殊合金製プッシュロッドを動かし、運動方向を22度かえながら8個の吸排気弁を作動させる特殊プッシュロッド方式を採用しています。
約1万回転の高回転まで、なめらかな作動を可能にしました。

カム機構


e.パワーチャンバー(出力室)の採用

クランクケース後方に大容量パワーチャンバーを装備しました。左右の気筒から交互に排出される排気ガスの脈動は、チャンバー内で正・負圧がそれぞれに物理的干渉をしながら掃気効果をより一層高めています。
その結果、吸気の充填効率は、高速ではもとより中低速でも大幅に向上し、扱い易いトルク特性を得ることに寄与しています。また、消音効果もあわせ持っていますので、排気マフラーも小さくまとめることができました。パワーチャンバーの採用は、ホンダホーク〈CB400T〉に続くものです。
気化器はベンチュリー(吸入管)径35m/mという大口径の新設計CV-B型アルミ製、アイドリング(無負荷)時から高回転域までむらなく最適な混合気を供給します。

パワーチャンバー(出力室)の採用
(1) クランクケース後方に左右が連結したパワーチャンバーを設ける
(2) 左右からの排気ガスは排気管を通りチャンバー内に入り膨張する
(3) パワーチャンバー構造はグラスウールをはさみ込んで遮熱、排気管は低中速トルクを増大させるため穴を明けてある
(4) パワーチャンバー内で膨張した排気ガスは、さらに消音器内でも膨張しつづけ、静かでかつ馬力損失が少ない
(5) 消音器内後部には低音を活かし、力強さを強張するための共鳴部を設けている

CV-B型気化器
CV-B型気化器




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