BEAT - 1991.05

BEAT
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TECHNICAL NOTES

ENGINE&TRANSMISSION
F-1エンジンテクノロジーの応用から生まれた、新開発660 MTREC 12バルブエンジン。
BEATがめざしたのは軽快で、しかもドライバーとクルマが一体となったような爽快感のある走りの実現。そのために、パワーユニットにはまず、ハイパワーはもちろん、どこまでもドライバーの気持ちに直結した小気味よいレスポンスが求められました。そこで、必要とするパワー、トルクを獲得するにも、ターボチャージャーなどの過給システムに依存することなく、あくまでもナチュラルで鋭いレスポンスが得られる自然吸気エンジンであることが第一の要件でした。また、ライトウエイト・ミッドシップの優れた運動性能を活かしきるには、エンジンは軽量、コンパクトでなければなりません。もちろん、高い燃料経済性の確保も欠かすことのできないテーマです。ハイレスポンス、ハイパワー自然吸気エンジンを、重量、燃費ともに有利な、可能な限りの小排気量で——。この課題に応える技術アプローチとして、BEATのエンジン開発プロジェクトチームは、極限の吸入効率を発揮し、スロットルの動きにきわめて鋭い追従性をみせるF-1エンジンの吸気システム、燃料噴射制御システムに着目。ホンダF-1テクノロジーを応用した、多連スロットルと2つの燃料噴射制御マップ切り換え方式によるハイレスポンス・エンジンコントロールシステム、MTRECを新開発しました。そして、この画期的システムを核に、数々の高回転・高出力化技術を注ぎ込み、まったく新しい総排気量656cm3で3気筒の、660 MTREC12バルブエンジンを完成。自然吸気ならではのシャープなレスポンスにさらに磨きをかけるとともに、自然吸気660エンジンでありながら、最高出力64馬力を達成しました。しかも、燃料経済性についても、10モード燃費17.2km/Lという高水準の値を実現しています。
660 MTREC 12VALVE 660 MTREC 12VALVE
MTREC(エムトレック)=Multi Throttle Responsive Engine Control System
総排気量 656cm3
最高出力(ネット値)64PS/8,100rpm
最大トルク(ネット値)6.1kgm/7,000rpm
10モード走行燃料消費率(運輸省審査値)17.2km/L
60km/h定地走行燃料消費率(運輸省届出値)27.0km/L
「ネット」とはエンジンを車両搭載状態で測定したものです。

3連スロットル構造図
3連スロットル構造図
吸入効率を飛躍的に高める、3連スロットル。
高性能化の基本は、まず燃焼室にいかにすばやく、しかも多量の空気を引き入れることができるかにありますが、MTRECの特徴のひとつは、この吸入効率の向上を図るため、多連スロットルを導入したことです。量産エンジンは、一般に単ボアのスロットルボディを備えています。これに対して、新開発660MTREC 12バルブエンジンでは、F-1エンジンと同様に、各気筒のインテークマニホールドにそれぞれスロットルバルブを設置。その上で、スロットル同調をシンプルな機構で正確に行なうために3ボアのバルブ作動を一体式とした3連スロットルボディを採用しました。これによってスロットルボア径をφ36mm×3と大幅に拡大するとともに、インテークマニホールドの直前にエアクリーナー兼用の大容量チャンバーを設けたことで各気筒間の吸気干渉を抑え、吸入効率を飛躍的にアップ。高出力・高トルクを実現しました。また、スロットルバルブから燃焼室までの長さを短くできるこのレイアウトにより、燃焼室への吸入空気量はスロットル開度の変化に俊敏に追従。スロットルレスポンスの向上にも寄与しています。

高い吸気脈動効果、慣性効果を引き出す、テーパーポートインテークマニホールド。
3連スロットルによる吸気系の脈動効果、慣性効果を活用し、空気をシリンダーに効率よくスムーズに引き入れるため、インテークマニホールドには徹底したチューニングを実施。長さ200mmで形状はできるだけストレートに近く、φ36mmからφ29mmまで内径を次第に変化させたテーパーポートのインテークマニホールドを新開発しました。同時に、エキゾースト側のポート断面を拡大し、吸入から排出への流れを極力なだらかに設定。高出力、高トルク、ハイレスポンス達成に大きく貢献しています。
シリンダー&マニホールド断面図
シリンダー&マニホールド断面図

3連スロットルの機能を有効に活かす、エアクリーナー兼用大容量チャンバー。
インテークマニホールドが高い吸気慣性効果、脈動効果を生む形状、長さであっても、そこに至るまでに吸入抵抗があっては、吸入効率のアップも、レスポンスの向上も望めません。そこで、このMTRECエンジンでは、小型車並の5Lという、エアクリーナー兼用の大容量チャンバーをインテークマニホールド直前に設置しました。この結果、インテークマニホールド手前はエアクリーナーを持たない大気開放状態とほぼ等しい設定となり、3連スロットルのもたらす優れた吸入効率、ハイレスポンスの効果を最大限に引き出しています。
3連スロットルレイアウト図
3連スロットルレイアウト図



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