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ツインリンクもてぎは夢のような場所だ。もしあなたがクルマやオートバイのエンスーなら、もてぎには朝早くからお出かけになることをお勧めしたい。なぜならホンダ・コレクションホールは時間の経つのを忘れるほどおもしろい博物館で、レースのスタート時間に遅れてしまうことが容易に想像されるからだ。量産型からレース用まで、展示されているクルマとオートバイも素晴らしければ、ディスプレイ方式も美しい。
私も先日ツインリンクもてぎに行って、ホンダ・コレクションホールを訪ねたが、その日の午後に新型NSX-Rプロトタイプのテストが控えていたために、駆け足の見学になり、後ろ髪を引かれる思いでホールをあとにした。テストはもてぎのロード・コースでおこなわれた。前述の新型NSX-Rプロトタイプの他に、初代NSX-RとタイプSが用意されていた。NSX-Rはベースモデルよりも大幅に軽量化されており、レーシングカーに近い仕様で、よりエキサイティングに仕上がっている。グリップが強く高速での安定性が高く、コーナリングにも適している。パワーステアリングも取り外されていた。遮音材も大半取り除かれているために室内はノイズが入り込んでくる。つまりタイプRは純粋に走らせることを目的に開発されたクルマなのだ。したがってもてぎは、NSX-Rのようなクルマにはもってこいの場所である。当然、私はその日、新型NSX-Rを集中的にテスト・ドライブした。乗り込むときには多少窮屈な姿勢が要求されるが、一旦カーボン製フルバケットシートにおさまり、ステアリング・コラムさえ調整すれば、完璧なドライビング・ポジションを得ることができる。左手を数センチ左に伸ばすと短いチタン製レバーが自然なかたちで手に触れるよう取り付けてあり、スロットルペダルとブレーキペダルもヒール・アンド・トウをおこなうには理想的に配置されている。大きなタコメーターも標準装備であるMOMOのステアリングのスポークを通して、真正面に見やすく取り付けられている。
当日テストに使ったもてぎのショートカット・コースは、トリッキーなS字カーブが一ヶ所あったが、全体的にとても走りやすいコースであった。ピット前の一番長いストレートは、最後に下って右の90度コーナーへと続いている。新型NSX-Rのテストでは、ブレーキング・ポイントは5速ギア、200km/h時であった。ブレーキをおもいっきり踏んで、ヒール・アンド・トウとダブルクラッチを駆使しながら、すばやく3速にシフトダウンする。多くの人はヒール・アンド・トウだけでシフトチェンジをおこなうが、私にとってダブルクラッチを使うことは身に付いた自然な動作で、スムーズなドライビングには欠かせない。
その右の90度コーナーを立ち上がり、3速のままコースの左にクルマをキープしつつ次の右コーナーに進入する。そのコーナーを立ち上がったらクルマを中央につけて、次の左カーブに備える。その左カーブを出る時にはやや左にクルマを寄せて、小さな丘の向こうに待ち構える右から左に曲がるS字カーブを駆け抜ける。最終コーナーには右のヘアピン・カーブが設定されていて、ツイスティなおもしろいコースだった。
新型NSX-Rはその真価を存分に発揮し、究極のドライビング・プレジャーといってもよい走りを見せてくれた。やはりNSX-Rは「筋金入り」のドライバー向けに作られたクルマだということを実感する。この快感を得るために多少の犠牲を厭わず、思い切り快楽を味わいたいと思う人たちのためのクルマである。私は初期のころからNSXの開発にかかわった人間の一人として、そのことを誇りと喜びに思っているが、12年間進化を続け、トップクラスであり続けるNSXを心から称賛かつ祝福したい。 |