NSXプレスvol.28 Topへ
Photo
     
復活のニュル
1 (2)
 
   
  週末には一般公開され、観光バスも走る。走行料金徴集係をつとめる、老紳士がおさまるボックス横のゲートをくぐりコースイン。いきなり左にRを描きながらのヒルダウン。42mの急降下。すぐに連続するS字を2つクリアしながら降下を続けたあと、標高525mから600mまで一気に駆け上がるジャンピングスポットへ。空を仰ぐ頂点をクリアすると、つぎの難関は下りながらの鋭角タイトコーナー。このあたりから森が深まる。まったく先の見えないコーナーを下っていくには、これみよがしの馬力ではなく、クルマが手足のように動く確かなコントロールクオリティが必要だ。

このあと、ブラインドコーナーが連続するアップダウンが約3kmも続く。ここまで走ってもまだ3分の1にも満たない。ふたたび100m以上降下し、最も低い標高320m地点へと向かう。コーナリングの最中でも容赦なくアップダウンが出現し、ときに逆バンク状態となる。クリッピングポイントを迎えようとした刹那、タイヤが離れてしまうほど地面が遠ざかる。また逆に前半急降下、クリップの後は急上昇というコーナーも。荒れた路面でのブレーキングは恐怖だ。

そして後半。上りの緩やかなコーナーが続く。時速200km/hを超える左高速コーナーを過ぎ、山をひとつ越え、右のスプーン状のコーナーを抜けると名物カルーセル。イン側半分にコンクリートを張り付けた、このバンク状のヘアピンコーナーは、かつて観光バスが横転したことで有名。ここをあとにし、ふたたび標高600mを越えるためにコーナリングを重ねる。上り切って、大きくRを描いて右にカーブしたあと、16kmの地点までジェットコースターさながらのアップダウンコーナーが延々と続く。そしてもうひとつのタイトなバンクをクリアし、右Rを駆け上がったあとは約2kmのストレートを残すのみ。これがニュルだ。
   
「本日も快晴。予想よりも良い感じのハンドリングらしい。大久保のキメ細かいインプレの報告を聞いて、一安心。このクルマのダイナミック性能を知り尽くしている彼の評価は絶対の信頼を持っているから、なおさら安心だ」
「タイヤとブレーキのデータ取りを完了。ブレーキの方も明らかな性能進化が、確認できた。NSX初代のブレーキ開発から、一貫してスポーツカーのブレーキを開発してきた簑田。誰よりもその実感を感じとっているのだろう」
   
  「いよいよ自分でステアリングを握りニュルを試走。コース状況と自分のコースイメージがつながってないので、思ったようにスムーズに走れない。でも乗った印象として、“安心感大”。先が読めず不用意な操作やブレーキをしても安定している。これは助かる。まさに狙った以上のコントロールクオリティだ」「路面の複雑なアンジュレーションに煽られても、神経質な動きをしない。スムーズ。また、乗り味も“R”らしいガッツ感がありながら、跳ね回らない。舵も効く。安定していて気持よく曲がっていくから、すごく楽しいし疲れない」
塚本の記録ノートの行間から、NSX-Rの仕上がりのよさが伝わってくる。
「明日はいよいよ全力走行の日。今日は、1日かけて重整備実施。メンテ担当で来た、高久、田崎にとっても最大の山場だ。彼らもまたNSXに関して超ベテラン。明日の走行時間を無駄にしないよう今日中にすべて完了させなければならない。テキパキと作業が進んでいく」

「それにしても、ワークショップも見違えるように立派になった。10数年前、単なる木材屋さんの車庫だった作業環境が、NSXに関しては研究所でメンテするのと遜色ない、いやむしろやりやすいくらいの環境となっている。部品だって、NSX専用の小部品までしっかりそろってる。このワークショップもNSXとともに進化したのだ。あるメンバーが、ここはタイムカプセルだと言っていた。10年前につくったものがしっかり残ってる。まさにその通りだ。車両完成」

「5:30起床。外はかなり寒い。夜はまだ明けてない。でも快晴のようだ。絶好のテスト日和だ。みんな真剣な面持ち。ウォームアップを終え、いよいよ走行スタート。助走路から勢いをつけて、発進」
「今どこを走っているか想像しながら、時計を眺めている。みんな言葉少なだ。この難コースを速く走れることは、NSX-R開発の狙いの正しさの証明となる。1ラップ目はウォームアップかと思っていた。しかし、予想を上回るタイミングでエンジン音とタイヤのスキール音。と思った瞬間、ゴールの最終コーナーに飛び込んできた。――速い。スタッフは静かに感動を噛みしめている。目にうっすらと光るものが滲む者も。上原も満面の笑顔だ」
   
  1/2 復活のニュル Topへ    
Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生
NSX Press28の目次へNSX Pressの目次へ
 
NSX Press vol.28 2002年5月発行
Photo Gallery Taste of New R 復活のニュル CRAFT OF R マイナスリフトの威力 風穴の力学 事の発端 New NSX-R誕生