ひと足お先に…。弟、和隆氏が銀行からの100%の融資でS Zeroを購入。
99年になり、兄はようやく大学院を終え、本格的な精神科医として現場復帰。フルタイムで働けるようになり、当然ながら収入も増えた。
そんな折、実家で老人診療へ業務拡大のための実務に奔走を続ける弟が2月にめでたく結婚。そして9カ月を経た11月には友人の勤める銀行から全額融資を受け、弟はなんとNSX タイプS Zeroを購入してしまうのである。はじめS2000を購入しようとしたが、9カ月待ちを嫌った勢いでNSXの購入を即決したというのだ。
この破天荒な買い物の計画に、結婚したばかりの奥様は驚愕。「中止しないかぎり即座に別居する」と弟に迫った。しかし、それまでマーチのスーパーターボに乗っていたという弟は、多忙な仕事のストレスもあり、何としてもスポーツカーが欲しかった。
それで奥様の制止を弟は本当に振り切ってしまう。脇目も振らず、かつて兄が所有していた官能のNSX、世界最先端の環境性能を誇るLEVエンジンを搭載し、エアコンがオプションとして設定可能となったNSX タイプS Zeroを購入してしまったのだ!
彼の行動は、奥様にしてみればよろこびも悲しみも分かち合う家族としてあまりに一方的な行為。そして新婚のさなかに、愛する夫が愛情を注ぐ強力なライバルが出現したことにもなる。我慢を重ねた奥様であったが、やむなく初志貫徹…という事態にまで発展してしまったのだ。

弟さんのNSXのコクピットに座り兄、淳夫氏はその場で再度購入を決意。
欲しいと思っている所にぶら下げられたニンジン。思わず飛びつくのが人情であろう。兄、淳夫氏もそう決意した。帰郷して弟さんのNSXのコクピットに座らせてもらった兄は、まっすぐ前を見つめ「俺も買う」というひと言を静かに発したという。しかしさすがは兄。きっちりと奥様から快諾を取り付け、同じくNSX タイプS Zeroを今年2000年の3月終わりに購入した。
そしてNSXを手中にした兄の行動は早かった。春から夏がはじまるまでのわずかの間に、NSXオーナーズ・ミーティングのベーシックコースを鈴鹿とツインリンクもてぎで各1回、アドバンスドコースを鈴鹿で1回、計3回も受けたのだ。そのうち、鈴鹿のベーシックには弟も参加させている。道具を手に入れた途端のはしゃぎように、兄の奥様は何度かキレかかったのことだが、どうにも留められないほどの魅力がオーナーズ・ミーティングにはあると兄は力説する。このミーティングがあることでNSXの魅力が高まるのだと。さすがホンダ、売りっぱなしではない、かつてサーキット不毛の日本に鈴鹿を造り上げたような心意気をNSXオーナーズ・ミーティングに感じるのだという。

サーキットドライブはスポーツを超えた心のトレーニング。
photo 「スポーツドライビングとは、クルマ、もっと言えばタイヤとの対話である」と黒澤特別講師が力説する。「科学を超えたところの人間の反応力のトレーニングにもなる」と清水特別講師は語る。
兄、原 淳夫氏は、サーキットでのドライビングはメンタルのトレーニングになるとも力説していた。普段、精
神科医として精神療法を手掛ける場合、患者さんから発信されるメッセージを感受し、それに対することが必要となる。サーキットドライビングにおいて、人間の五感プラスアルファの感受性を総動員してタイヤと対話し、そのメッセージに上手く対処する操作を繰り返すドライビングを行うと、人知を超えた感受性を磨けるのではと兄は語るのだ。感受性が磨ければ、より多くのメッセージを患者さんからアクセプトできよりよい治療が行えるのではないかと。
単に自らの心を解放して楽しむ以外に、兄は自らの人生にプラスになる要素もサーキットドライブに見い出していたのだ。
弟とともに、NSXを中心とする波瀾の狂想曲を笑顔で語りながら兄は、「それだけ人生に大きな影響をもたらすほど、NSXは魅力があるということです。もう一度いいますが、NSXは完成されたひとつの芸術品だと思います」といってこの話を締めくくった。

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NSX Press vol.25 2000年9月発行