JGTC。日本グランドツーリングカー選手権。近年人気急上昇のレースカテゴリー。多くの人にとって“憧れ”の存在であるスポーツカーが覇を競うこのレースは、「クルマ好き」の琴線を刺激する。
ひしめくスタンドには、ごひいきのマシンにたっぷりと感情移入するスペクテイターの一団。そこで喜怒哀楽が激しく波打つ。我が愛しのクルマが先陣切ってチェッカーを受けようものなら、歓喜の洪水。任侠モノ上映中の映画館から肩で風を切って出てくる観客のように、満足感と優越感を胸に抱え帰途につくことができる。一方、華々しい結果が得られなかった側の「クルマ好き観戦者」も、レース中の印象的なシーンを何度も心の中で反芻し、決して悲観に暮れたりはしない。「きっと何か不測の事態があったに違いない」と楽観的な解釈を下し、次のレースに期待を託す。
――― 素晴らしきスペクテイターの熱きまなざしを一身に受ける幸福なレース。それが全日本GT選手権である。
1997年。5月4日、富士。ハーフウェットの路面でのスタート直後。3ラップが終了するまでに、この日デビューしたNSXはJGTC第2戦のレースから姿を消すことになった。スピン。そして回避による後続車との接触。あっけなく幕を閉じてしまったデビュー戦であったが、ピット周辺にはただならぬ空気が漂っていた。NSXは、吸気圧制限なしのターボ勢と同径のリストリクター(吸気制限装置)を使用すべしという“驚くべきイコールコンディション”で闘わねばならない自然吸気エンジンにもかかわらず、予選においてターボ勢に勝るとも劣らない速さを見せたからである。「恐るべしNSX」。今年のNSXの戦闘力はかなり高いのでは…という懸念が、シーズン注目の2つのターボ勢の関係者に広がった。真の実力を伺うチャンスでもあるレースで早々にリタイヤしたため、敵情を計り知れないもどかしさがパドック一帯をとりまいたのだ。
―――ライバル達が「懸念」を抱くのには理由があった。それは、日本最高峰ともいえるコンストラクターが、NSX
GTマシンの開発を手がけていたからだ。
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