しかし、センセーションを巻き起こしたデビュー後も、ホンダとアルミメーカー双方のテンションは一向に下がらなかった。さらに100gでもNSXを軽量化すべく彼らは研究を続けたのである。
―――着目したのは、さらに高度なベークハード性。
耐食性を落とさず、成形性を維持したまま強度アップ、軽量化を実現する肉厚ダウンのために、ベークハード性を何としても高めたいと彼らは考えた。
そこで再び研究を重ねた結果、目に見えない微少領域で合金の組織をコントロールするレベルに到達。アルミ合金の組織中にオングストローム(百億分の1メートル)単位の“核”をつくり込む、特殊な熱処理が開発されたのである。微少な“核”を中心とし、ベークハード時に強固な組織がつくられ、完成時の強度が大幅に高まった。ベークハード性はおよそ2倍にも進化したのだ。
この新たな熱処理は、段階的に厳密な温度管理が必要で、まさにノウハウの塊。 つきっきりで製造過程を見守らなければならない。それに加えこの熱処理により、それまで好バランスがとれていた添加物の配合をさらに何年もかけて煮詰め直す研究が必要となった。
軽量化に対する熱き想いに駆られたスクラップ&ビルド。何と言おうか、アルミメーカーのスタッフを含めたNSX開発チームの面々は、とどまるところを知らないスポーツカー心酔家、決して妥協をよしとしないタフガイだ。
タイプSをはじめとする現在のNSXは、再びこの世にはじめて生み出された、希少なる高強度アルミ合金で身を固めているのである。どのスポーツカーにも使われていない合金で仕上げられたモノコックボディを持つ。そういう意味でも、NSXは世界で最も幸福なスポーツカーのひとつといえるのではないだろうか。
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