純粋なアルミは柔らかい金属だが、ある種の元素を添加することによってその性質はさまざまと変化する。それがアルミの特徴である。たとえば、戦闘機のフレームにもなり得る高強度を持たせることもできるのだ。その元素とは主に亜鉛、マグネシウム、シリコン、銅など。
その中でクルマに使われるのは、マグネシウムを加えた「5000系」と呼ばれるアルミ合金と、マグネシウム、シリコンを加えた「6000系」。ちなみに“ジュラルミン”といわれるポピュラーな航空機材は、銅を添加した「2000系」である。
5000系は、さまざまなクルマがボンネットフードなどに利用している。軽量化がその主な目的である。NSXのプロジェクトが立ち上がったとき、アルミメーカーもこの5000系を外板として使用したいと考えていた。プレス、溶接などの加工がしやすく、強度も比較的高いからだ。しかし、ホンダのNSX開発チームはあっさりとポピュラーな5000系を蹴った。それは、プレス・塗装後に「微妙だが、ホンダとして耐えられない縞模様が出る」からだ。
それではどうする?順当に考えれば、プレス・塗装後の表面が美しい6000系となる。しかしそれもダメ。既存の6000系は「成形性と完成時の強度が足りず、耐食性も不合格」と、NSX開発チームはまたもや一蹴。
アルミメーカーは大いに頭を抱えることになった。現在各国で自動車パーツとして使われている実績のある材料では、NSX開発チームの要求を満たすことができないからだ。しかし、それは極限まで性能を突き詰める意味では当然の要求といえた。塗装後にも美しく、優れた加工性と耐食性を持ち、軽量化のための高い強度を持つ材料の開発。非常にハイレベルのスピリット。「この程度でいいじゃないか」という姿勢の徹底拒否。NSXイズムである。
さあ、ここから「世界初の合金」へ向けての闘いがはじまる。
やはり塗装後の美しさが他の合金で出せないため、6000系がベースとなった。めざすは軽く強く美しい、この世ではじめての新たなる6000系アルミ合金である。
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