疑問が解消するのに時間はかからなかった。NSX開発チームの要求が厳し過ぎたのである。ホンダのスタッフが「タントツ」と呼ぶそのテストは、路面に置いた10cmほどの角材を直角に走破するものだが、それを低速からはじめ、なんと50km/hまで速度を上げてもホイールのリムに変形があってはならないというのだ。これほど過酷な衝撃試験は、彼らもはじめてであった。テストでひしゃげたBBSは、フロント用42本、リアは実に150本にも及んだという。むろん試験用に使用したNSXも何台も大きなダメージを受けることになったが、ホンダの面々はその規準を決して緩めなかった。そして、果てしない開発努力のなかから、インナーリムの形状に独自のデザインが生まれ、過酷なテストが乗越えられた。1台当たり4kgという大幅な軽量化と高強度を両立させたNSX専用のBBS鍛造ホイールは、そうして誕生したのである。

「フェラーリのF1のときも、ポルシェGT1のルマン・カーのときも、こんな苦労はしなかったですよ」ともらしたY氏は、ホンダの開発チームの尋常ならざる熱意、あるいは執念に、いつしか感化されてしまったかのようでもあった。
10ヶ月にもおよぶ難産の末に、ようやく陽の目を見ることになった筋金入りのBBS鍛造アルミホイール。これを履いた新しいNSXは、また新たなる境地を切り開いてくれるような気がする。
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