
そして14時8分、ついに最後のピットイン。リアタイヤ交換、エア抜き、ガス補給。飯田が再びウインドウを拭き、元気を取り戻した土屋選手が出ていく。タイムを20秒台に戻した。しかし、残った25台は、24時間を必死に走り抜いた精鋭。NSXは、GT2クラス3位という位置をキープしてゴールイン。23番GTRを食うことはできなかったが、文字どおり渾身の力を振り絞っての完走。ピットは歓喜に包まれた。終わってみると、24時間があっという間に過ぎ去ったようだった。それほど夢中になれるレースだった。
我がNSXは、2度のタイヤバーストやクラッチの故障、ブレーキのダメージなどにみまわれながら走り切った。そして、クラス3位という栄冠まで手にした。手負いのNSXを迅速な作業で素早くコースに送り返したチームのピットワークは見事だった。バーストしたタイヤがリアブレーキダクトを壊したときなど、彼らは円陣を組み、作業をいかに素早く終わらせるか周到に準備した。フロントブレーキを交換する作業を組み入れ、誰がどのように動くかまでを打ち合わせていたのだ。その後のエアジャッキ交換、ドライブシャフトの加熱を防ぐために臨時のダクトを急ごしらえしたときも迅速だった。
クラッチがなくなり、ギアを1速に入れたままのスタータースタートをスムーズにするためにリアタイヤに洗剤水を塗ったり、終盤の暑さのなかで少しでもタイヤ交換の回数を減らすべく、フレッシュタイヤではなく、1度走り込んだタイヤ(耐熱特性が良いため)を使うなどの地道な工夫がNSXを支えた。
また、今回チーム国光としてはじめて招聘したドクターの努力もドライバーの負担を大きく軽減した。昨年ほとんど寝られなかった土屋は、今年はドクターの手当を受けながら安心して眠った。そしてもちろん、ドライバーの頑張りがNSXを支えた。絶妙なチームワークは不思議な力をNSXに与え、3年連続の完走、昨年の優勝に引き続きクラス3位という栄冠をもたらした。
ゴールのあと、予選前に語っていた土屋選手の言葉を思いだした。それは、「世界のスポーツカーが集まり、エントリーしたなかでNSXが一番小さいエンジンを積んでいる。だけどその優秀性を示せるのがルマン。ゴールを迎えたとき、NSXが上位にいたとしたらそれは世界にとって驚異でしょうね」というものだ。たしかにその通りとなったのだ。来年、NSXがルマンにあらわれるとしたら、また車検のときから大いに注目を集める存在となることだろう。
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