上原顔 NSXを発売してから現在までの5年と数カ月の間に、2,000人以上のオーナーの方々にお会いしました。それは、実際に使われる方がどう評価しているかを自分の耳で聞きたいという思いと、様々な疑問にお応えしながら我々の考えを直接伝えたいという思いがあったからです。欧州をはじめとする名門スポーツカーによって、一つの確固とした価値観が創造されている分野に新たにデビューするわけですから…。もちろん自信はありましたが、不安も大きかったというのが正直なところですね。
なかでも誤解を解きたかったのは、簡単に運転できるスポーツカーはスポーツカーではないということです。もう、この冊子をお読みの皆さんはご理解されているでしょう。NSXが登場する以前は、スポーツカーの世界はマシン至上主義の世界だったと思います。そうしたスポーツカーが放つ魅力は独特のものがあり、私も親しんできた者の一人です。しかし、操る人間のことを真剣に考えるスポーツカーがあってもいいじゃないか…というのがNSXのそもそものはじまりです。
いざ憧れて名門スポーツカーを手にしたとしても、少々持て余してしまう方も多かったのではないかと考えたわけです。窮屈な姿勢、視界の悪さ、重いクラッチ、少し踏み込んだだけでホイルスピンしてしまう強大なパワー、ピーキーなエンジン性能などなど…。いささか困難を強いる乗り味をスポーツカーならではのテイストとしてとらえる方はいいのですが、スポーツカーに興味を持たれる方のすべてがそうではありません。そうした単純なことに目を向け、人とスポーツカーのあり方を徹底的に究明してつくったのがNSXというわけです。
だからといってそれがすべてと主張しているわけではありません。ただ、これまでのスポーツカーと違うNSXがスポーツカーではないと誤解されるのはイヤだな…と思ったわけです。
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NSX Press vol.17は1996年3月発行です。