最後に、谷村氏がもう一台乗り続けている、H1300について。これも24年間、日常の足として使っている。スキーに行った回数は数えきれないという。8年目に点火系を変えただけ。まったくといっていいほどノーメンテナンスだが、エンジンは絶好調。サスペンションは10年に一度の割合で交換し、ホイールは10年目に4Jを5Jにした。非常に高いスタビリティを持ち、オン・ザ・レール感覚で気持ちよく曲がっていくという。 高速のカーブでバッとアクセルを戻しても、タックインのかけらも起こらず、まったくのニュートラルステアだという。
ホイールを換えて…と前置きしながらも、発売当時の雑誌に載せられた、ステア特性に関するH1300の芳しくない評を一蹴した。
「ビス1本にまで航空機を思わせる精巧なつくり込みがなされており、設計者のただならぬ情熱を感じますし、空冷・横置きFWDという当時としては独創的なアイディアに惚れ込みました。このクルマが潜在的に持つポテンシャルは非常に高いんです。宗一郎さんが生きている間に、何とか世の中にこのH1300の素晴らしさを主張したかった」と語っていた。
様々なクルマを所有するのも面白い。しかし、長い間人生をともに歩んできた一台があるという喜びは、また格別なものだろう。
この先、谷村氏の持つ思い入れの「バー」を、革新的な魅力を放ち鮮やかに飛び越えるクルマがあれば、彼は2台を手放し乗りかえるだろうか。
「もちろん…」と彼はいった。が、おそらくそうはいかないだろう。
きっと彼のガレージは、“エス”と“1300”と…もう1台になるに違いない。
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