NSX-T誕生

ユーティリティを犠牲にしない秀逸なルーフシステム

通常のオープントップカーは、外したルーフをトランクかシートバックに収める。トランクに置いた場合、バゲージ・スペースを失うことになり、シートバックに置く場合はシートポジションや視界に影響を与える。いずれも、開放する代わりに何かを犠牲としている。ルーフを外す方法にしても、専用のツールを必要とするなど困難な方法をとる場合が多い。これも快適であるとはいいがたい。
このルーフシステムにおいても常識を塗りかえた。
NSX-Tは、ルーフの左右にあるロックは、セーフティノブを押しながらレバーをおろすだけで簡単に解除。さらにオールアルミの軽量ルーフは、トランクではなく、リアキャノピー内に収められるのだ。エンジンルーム上のこのスペースは、エアクリーナーのデザイン変更により確保されたもの。
エンジンを覆うように存在するホルダーへのルーフの固定もほとんど置くだけといってよく、極めて簡単。こうしたシステムにありがちな“知恵の輪”的な苦労はない。もちろん、ルーフカバーを閉めることで、外観からはルーフがそこに存在することはわからない。

p09.jpg
 リアキャノピー内へぴったりと
 収められたルーフ


p10.jpg
 ルーフカバーにより、ルーフは
 完全に隠される


p11.jpg
 フロントルーフレールのすっきりとした
 デザインが映える

このシステムは、フロントルーフレールの曲率とエンジンルーム後方の曲率が等しいことが幸いして誕生した。ただし、このために意図的に曲率を変更したのではなく、もともと戦闘機をイメージして対称曲率を採用した、NSXのキャノピーデザインの恩恵なのである。オーナーにとっては、思わずニヤリとしたくなるこだわりであり、トランクのユーティリティを犠牲にしないという実質的なメリットをも享受できるのだ。
一足先に、オープンエアの本場米国で発表された際、このルーフメカニズムは絶賛された。雨の少ないカリフォルニアなどでは、外したルーフは置いていくことが多いが、このNSX-Tは折り畳み傘を持ち歩くような安心感と便利さがあるというのだ。この比喩を借りると、それ以外のルーフは、さしずめ荷物になるふつうの傘になるのだろう。



button
back index

NSX Pressの目次へNSX Press Vol.15の目次へ

NSX Press vol.15は1995年3月発行です。