四方義朗 四方義朗 1948年生まれ。大阪市出身。ファッションショーの企画・演出を手掛ける「サル・インターナショナル」代表取締役。ファッションプロデューサーとして活躍する他、都市開発のアドバイジングなども手掛ける。TV番組などにもホスト役等で出演多数。自動車、特にスポーツカーに関する知識は深い。


田辺「スポーツカーって、なんなんだろう。僕達も本を作っていながら、このクルマはスポーツカーなのか、スポーツカーじゃないのか・・・といった、どうでもいいようなことなんだけれども(笑)話し合ったりする。過去20何年、僕の中のスポーツカーの定義は何回変わったかわかりませんね。ある時は160km/hでクルージングできればいい、と言っていた。ところが乗用車がみんなそういう性能になってきた。それで性能そのものはスポーツカーとは関係なくなっちゃった。それで、背が低くて二人乗りで小さくなければいけないとか言ったんですがそれも難しくなってきましたね。今はもう、こういう言葉では分類できなくなっている。それでも強いて言えば、完全な二人乗りで、やっぱりオープンがあって・・・ということかなあ。難しいですね。定義付けはやっぱり難しい」。

四方「そうですね。定義付けはできないかも知れないね。僕みたいな人間にとっては、『あ、スポーツだな』って認識されたらそれはスポーツカーなんだという気がするな。速さではないと思うし、そのクルマが本能的に欲しくなったり乗ってみたくなったりしたらスポーツですね。田辺さんがよくおっしゃるけれど『駐車場に停めてから振り返りたくなるようなクルマ』ですね。ビジュアルなインパクトもスポーツカーには大切だと思います」。

田辺「そういう意味ではスポーツカーっていうものは、人に説明する必要のないクルマだってことになりますね」。

四方「うん、確かにね。それから僕は、スポーツカーの不便なところも愛すべきところだと思うんですよね。音とかステアリングの重さとか、ある人にはそれは単なる騒音であったり、苦痛でしかないけれど、ある人には快音だったり気持ちのいい手応えだったりするわけでしょう。オープンカーって、確かに気持ちがいいんだけれども、逆に辛かったりすることもあるからね」。

田辺「そうそう。僕も若い頃クルマは何がなんでもオープンだって思いこんで乗っていたけれども、結局やせ我慢しなくちゃいけなくなることがあった。寒さは心地良さの範囲を超えていくし、顔を洗わなくちゃいけないし。だから誰もいなくなったらそっと屋根を閉めたりしてね(笑)。でもそういう実用性を敢えて削りましたっていう姿勢がスポーツカーには必要なんですよね」。

四方「でも、現在の僕自身は『そこそこの音』じゃなきゃ嫌だし、『そこそこの重さ』で『荷物も積めたらいいな』と思うのは事実だな。現代のスポーツカーの作り手側にとっては難しいところですよねえ」。

田辺「四方さんは、NSXに何を望みますか?」 四方「スポーツカーというのは、普通の乗用車とか商用車とは違う特別の位置づけがなされるべきクルマなんだと思うんですよ。性能であるとか、伝統であるとか、そこが大きなポイントだな。世界的な不景気とかスポーツカーのみならず自動車に対する向かい風が強まっていく現状がありますが、その中で軟弱になてしまったらスポーツカーではない。だからNSXにも軟弱にならずに潔くあってほしいですね」。

田辺「なるほど。それは現状をよく認識していらっしゃる。僕もそう思います。そのためには時間が必要なんでしょうね。たとえばフェラーリは、もう何十年もスポーツカーを作ってきたから、そういう裏付けを持っている。性能を見ても、それなりの有り難みがある。そういう意味でNSXはスポーツカーとしては、始まったばかりですからね。今回、また一歩を踏み出した、ということになるのでしょうね」。

四方「2シーターでミッドシップで、というスポーツイメージの集大成という意味で世界の名だたるものに、ホンダはNSXを生みだしてぶつけた。作り手側がまず主張して、その主張に共鳴する人が乗るクルマがスポーツカーなんだとすれば、自動車好き、ホンダ好きがこのNSXというクルマをどう受けとめて育てていくか。これはもうメーカーだけの責任ではないのでしょうね」。


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NSX Press vol.15は1995年3月発行です。