先進、それは至上の歓び

レーシングカートを楽しんでいる人なら誰でも知っていることだが、カートにはマシンのクラスによって2種類のタイヤが用意されている。初心者はスピードの遅いマシンに、グリップ力の乏しい細目のタイヤを装着して練習に励む。僕がまだ、その典型的な初心者だった頃、ある日師匠であるカートショップのオーナーのマシンをドライブさせてもらう機会を得た。親切心もあったろうが、そこにはしたたかなビジネスマインドもあったはずで、これで私のカートライフは一変してしまったのである。
そのマシンは、トップカテゴリーのもので、ミッション付を除けば頂点のマシンだった。もちろんタイヤは、強力なグリップ力を持つワイドなタイプ。ブレーキは4輪ディスク、フレームはヨーロッパ製で当時、数々のレースで、多くの選手に表彰台を確約していたものである。そのときの僕のマシンといえば国産の入門機で、タイヤはナロー、あるゆるコーナーでスピンばかりして、まさに悪戦苦闘。限界コントロールの妙味など微塵も感じない不毛のカートライフを過ごしていた。楽しみは少しづつ好転するタイムのみ。しかし「腕を上げればやがて極楽浄土的サーキットランが待っているんだ・・・」と信じていた。夢のマシンの試乗を勧められたのは、時あたかも、「苦あれば楽あり、この原則はモータースポーツ界にも適用されるんだな」と、歯をくいしばり、覚悟を決めはじめた頃である。



buttonf
back../next

NSX Pressの目次へNSX Press Vol.15の目次へ

NSX Press vol.15は1995年3月発行です。