緒戦、すべて完走のNSX。
これまでのすべての大会と同じように、今回のルマンもはじまった。レースウィークが近づくにつれてサルテ地方の人口密度は徐々に高まり、決勝ではあふれるスペクテイターの食欲を24時間中満たすビールやドッグ、フライドポテトを売る店、まれに気分転換を望む人を待ち受けるルマン名物の特設遊園地や見せ物小屋が立ち並びはじめる。水曜日には、サンジュリアン教会のそばにあるジャコバン広場でゆっくりとした雰囲気の車検がはじまり、2日間の予選を経て土曜日の4時に決勝がスタートするのだ。
しかし、決勝前、グリッドに居並ぶマシンの風景はいつもと違っていた。かつての主役、Cカーだけの列は前方わずか2列であり、残りの23列は、前方にCカーを散りばめてはいるが、そのほとんどがスポーツカーである。
レースも強豪ひしめくプロトタイプクラスを抑え、プロトタイプをベースに市販車に仕上げたGT1クラスのポルシェ962LMが総合優勝を果たした。
そして注目のNSXは、初参加、それも年明けからの慌ただしい準備期間で用意されたマシンでありながら、充分な戦闘能力を発揮し、3台すべて完走するという偉業を成し遂げた。もちろん、トラブルに見舞われなかったわけではない。なかでも英国製シーケンシャル6速ミッションのトラブルは、ドライバーにとっては過酷だった。あるときはギア抜けを起こし、またあるときは頑ななシフトレバーを全身の力を込めて動かさなければならなかった。手の皮を剥き、日中は60度を超えるコクピットの暑さにも耐えながら、シケイン、ミュルサンヌのハードブレーキングを遂行するドライバーは疲労と脱水症状に耐え、NSXを走らせたのだ。ただ、気温の下がる夜。ギヤボックスのトラブルを解消したNSXのドライブは、快適そのものだったという。癖のない、コントロール性に優れたフィーリングはルマン仕様のNSXにも活きており、24時間という長丁場を闘うドライバーの不安をひとつ軽いものにした。ライトチューンされたV6エンジンは、大きな不調を訴えることなく24時間を走り切った。今大会の完走は、NSXの基本性能の高さを証明し、次なる闘いの問題点を明確にしたのだ。
24時間レースであるから、24時間走り切らなければならない。単に完走したからいいというのではなく、勝つためには最低限必要なステップなのである。最低限であるが、そのステップは過酷を極める。多くのマシンが、その途中で潰えた。しかしNSXは、それを、緒戦にして成し遂げたのである。

1994年ルマンカテゴリー
■カテゴリー1(プロトタイプカテゴリー)
 ルマンプロトタイプ2
 車重620kg/出力400PS/燃料タンク容量80リットル('93年タイプグループCカー)
 ルマンプロトタイプ1
 車重950kg/出力550PS/燃料タンク容量80リットル('90年タイプグループCカー)

■カテゴリー2(GTカーカテゴリー)
 ルマンGT1
 車重1000kg/出力650PS/燃料タンク容量120リットル
 ルマンGT2
 車重1050kg/出力450PS/燃料タンク容量120リットル
 IMSA-GTS
 車重1000kg/出力650PS/燃料タンク容量100リットル


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NSX Press vol.14は1994年8月発行です。