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一般にプロドライバーが鈴鹿を限界で攻めた場合、市販車のどんなブレーキでも3ラップを過ぎたあたりからフェードがはじまるという(一般ドライバーの場合はこれほど早くはないだろう)。プロフェッショナルドライビングの凄さと、レースカーのブレーキの凄さを語る事実である。 これは高温による摩擦力変化であり、通常走行のために開発したクルマはこれで十分なのである。一般道で、これほど連続する過酷な条件はまずあり得ないからだ。さすがのNSXの場合も、緩やかな摩擦力低下は避けられない。 しかし、今回の「GPパッド」は、そうした過酷な温度変化が起こっても、摩擦力が低下しないことが条件に挙げられた。さらに、低温域でも、高速からの制動においても目標とする摩擦力を発揮するという条件。つまり、スポーツ走行のあらゆる条件で目指す摩擦力を維持するという開発目標が立てられたのだ。ただし、量産性やコスト、耐摩耗性といった、走りに直結した他の性能はある程度度外視した上で…。 こうした、パッドの開発はある意味でレース用パッドよりも困難であった。レースでのノウハウを活かしながら、数十種におよぶ既存の摩擦材の配合を組み合わせ、何度テストを繰り返しても目指す性能を確保できなかった。そこで、新たな素材の検討がはじまったのだ。 |
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開発テストは、サーキットの走行パターンを記憶させたベンチテスターでシュミレーションを行なって素材を絞り込み、実際の走行テストで煮詰めるという手法。走行テストは、あらゆる条件をクリアするために、ニュルブルクリンクをはじめとするサーキット以外にも、アウトバーンや一般道、砂利道までに及んだ。 |
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ただでさえ、ミッドシップは前後バランスのスイートスポット領域が狭い。しかし、いったんスイートスポットに収まると、FFやFRでは得られない素晴らしい性能を発揮できる。 それがミッドシップの魅力である。特にNSXは、高次元のニュートラルなスポーツ走行性を追求したクルマであり、バランスを取るのがより困難である。レースカーのように重量配分を装備の配置変更で変えることも当然ながらできない。摩擦力の目標値をクリアしはじめてからも、制動力が高まった分、バランスが非常にセンシティブなものとなり、スイートスポットの発見に多大な時間を要した。 しかし、バランスはミッドシップスポーツカーの命。およそ1年をかけ、徹底的にバランスは煮詰められ、ついにその1点が求められたのだ。 「一般のスポーツカーではこれ以上の先鋭なパッドは求められないほどの性能」と、開発担当が自賛するほどの性能を求めた結果として、高純度セラミックスと特殊耐熱繊維という新素材を用いた特殊なパッドとなった。 そのスパルタンな性能を象徴させるべく、GPパッドは真紅にカラーリングされた。そして、開発中の試作ナンバーである「GP」という愛称を、そのまま商品名として採用。サーキットを転戦するグランプリというイメージが、ステージを選ばないスポーツドライビングのための高性能パッドのイメージと一致したからだ。 その制動フィーリングは、まさに秀逸と述べる以外にはない。パッドだけで、これほどの性能変化が享受できるものかと、感動いただけるはずである。 うれしいことに、GPパッドはカスタム・オーダー・プランのニューアイテムとしてオリジナルのNSXにも装着可能となった。もちろん、オリジナルにおいても十分なテストが行なわれたのは言うまでもない。 |
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