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アメリカ編 vol.1 Chapter-2
さて、NSXを買うつもりもないのに、ウィンドー越しに見たNSXに惹かれるようにディーラー店内に入っていったドクター・コールは『身なりもちゃんとしていなかったんだよ。カットオフされたブルージーンズにテニスシューズと古びたTシャツというラフな格好でね。どこから見てもNSXを購入しようとする人間には見えなかったはずだよ。まあこちらとしても、クルマを近くで見て、値段表をちらっと見たら失礼するだけのつもりだったから、ディーラーからの過大なレスポンスなんて期待もしていなかったんだけど』『一人のセールスマンが私をどう判断したものか近づいてきて、NSXをドライブしたことがあるかと訊くので、したことはないと答えると、ドライブしてみたくないかと訊かれた。

いきなり入ってきた人間にクルマをドライブさせるなんて、にわかに信じ難かったので、最初は子どもがクルマで待っているからと断っていたんだけれど、途中で気が変わって、「そりゃ乗りたくないことはないよ」って答えたんだ』そのディーラーにはショールームに飾られたNSXしかなかったので、大きなガラスドアを開けないとクルマが外に出なかったが、そのセールスマンは快く外に出してくれて、ドクター・コールは生れて初めてNSXをドライブすることになった。

ドクター・コール氏とNSX その時を思い出しながらドクター・コールは、『一度NSXをドライブすると、虜になってしまう。それまでに乗ったことのあるどのクルマもNSXとは比べ物にならなかった。当時乗っていたコルベットのステアリングはなんとも重く、NSXとは雲泥の差があった』『ポルシェでさえNSXに比べると重いクルマだったな。NSXは地面から数インチという低い姿勢でまるでレールの上を走るかのように滑らかに感じるんだ。走っていてそれは美しいクルマだった』『センセーショナルなのは、NSXに最初に乗った時、クルマの姿勢が低いので、まるでクルマのリア部分が舗道を擦って走っているかのような気がするんだ。しばらくすると慣れてきてその感じが消えるんだが、ともかく初めてNSXに乗った時はそういう感じがした。そして勿論すぐにハンドリングが最高に素晴らしいことが明らかになってくる』『たちまちNSXに惚れたけど、私は衝動買いはしない人間です(笑)』

ドクター・コールはその日はおとなしく家に帰った。件のセールスマンがその後コンタクトしてきたので、ドクターはショールームを再び訪ね、NSXをもう一度眺めまわし、NSXがドクターにとっては非常に大事な条件をクリアするかどうか、調べた。というのも、NSXがミドシップ・エンジン・スポーツカーといえども、コルベットのようにトランクにゴルフバッグが2つ収納できることが最低条件なのだ。ドクターは自分自身のと、奥さんのゴルフバッグの2つを持ってディーラーに行き、実際NSXのトランクに入れてみたのだった。NSXはテストに見事パスした。『2セットのゴルフクラブがちゃんと納まったよ。完璧だった』

その当時アメリカが不況だったこともあって、NSXの価格がリーズナブルに推移していたことも幸いした。『何も文句のつけどころがなかった』。彼は続けて、『私はそのNSXを買い、それ以来所有しています。無論その間たくさん他のクルマも乗りました。でも、たとえ9年を経た今でもNSXは新車の時のように走りますし、手入れを怠りなくやっているので今でも素敵なクルマのままです』
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