2017年最終戦バレンシアGPのレースウイークは、LCR Hondaのカル・クラッチローにとって、一筋縄ではいかない起伏の大きな週末になりました。
初日の金曜は8番手とまずまずの出だしでしたが、土曜の午前はペースを十分に上げることができず。3回のフリープラクティスの総合順位で13番手となり、午後の予選は遅いグループであるQ1に区分けされました。ここで上位2名に入ってQ2進出を目指す予定でしたが、Q1のセッション中、数少ない右コーナーの10コーナーで転倒してしまったためにタイムアップはならず、日曜の決勝レースは6列目16番グリッドという厳しい位置になってしまったのです。
「MotoGPはレベルの高いレースです。これだけ後方からのスタートだとかなり厳しい戦いを強いられそうですね」
さすがのクラッチローも、決勝は難しいレースになると覚悟せざるを得ない様子でした。
「明日の決勝はできる限りがんばりますよ。アベレージタイムは6~7番手くらいのペースなので上位の方だし、きっといいレースができるはず。みんなを抜いていかなければなりませんが、とにかく全力でがんばります」
その言葉通り、16番グリッドからスタートしたクラッチローは、日曜の決勝で前の選手たちをどんどんオーバーテイクしていきました。30周のレースを終えて、最後は8位でチェッカー。
「あれだけ後方からのスタートだと、この結果にまずは満足しておくべきでしょうね。抜きどころの少ないこのサーキットで10位以内で終われたのだから、上出来でしょう。どんどん追い抜いていって、ラスト10周はなかなかいい走りができていたと思います。かなり攻めたのですが、最後は時間切れでゴールになってしまいました」



全18戦を終えて、クラッチローの年間ランキングは総合9位。「まあまあのシーズンでしたね。いい結果を残せたレースもありましたが、4位や5位で終えることが多かった一年でした」と語る言葉からも、完全燃焼とは言い難い一年だったことがうかがえます。そしてこの悔しさを糧として次に活かすべく、レース翌々日の火曜からは18年シーズンに向けた2日間のテストが行われました。クラッチローはこの両日で127周を走行。17年仕様のマシンと、このテスト用に持ち込まれた18年プロトタイプの比較などを行い、当初は予定していなかったロングランも実施するなど、盛りだくさんの内容でテストを終えました。
「今日の大半は、新しい方のマシンで走りました。新旧マシンの比較をしたり、古い方(17年仕様)でいろいろ試したり」
2日間のテストを終えて、クラッチローはポジティブな手応えを得た様子です。
「乗り慣れている古いマシンの方が走りやすかったのですが、タイムは新しいマシンの方がよかったし、走るたびにどんどん気持ちよく乗れるようになりました。でも路面温度が低く、(18年プロトタイプは)1台しかなかったので、転倒などをしないように注意していました。マルク(マルケス)にもダニ(ペドロサ)にも、今回は1台ずつしかありませんでした。だから、だれもががんばって攻めはしましたが、無理はあまりしなかったんです。Hondaはすごくいい仕事をしてくれましたね。改良をリクエストしていたところが、ちゃんとよくなっていました。その分だけ、ほかの箇所に問題が出てくるかもしれませんが、それも次のテストでさらに改善していけるでしょう」
18年シーズンには、クラッチローに新たなチームメートがやってきます。日本人のMotoGPルーキー、中上貴晶です。今回のバレンシアでの事後テストでは、中上をけん引して走るという先輩らしい優しさを見せた瞬間もありました。
「テストを切り上げようとしていた終盤に、後ろにつかせて僕の走りを少し見せてあげたんです。決しておかしな走りをしていたわけじゃないけど、このマシンに慣れるには時間がかかりますからね。コーナーの出口では、マシンをもう少し早めに引き起こしたほうがいいけれど、それ以外は悪くない。なかなかがんばって、うまく乗ってるんじゃないかな」
ルーキーの中上にはいかにも頼りがいのある兄貴分、といったアドバイスです。来年シーズンのカル・クラッチローは、ますます多忙になって多くの注目を集め、さらに活躍することは間違いなさそうです。


