シーズン半ばを過ぎ、LCR Hondaのカル・クラッチローは、昨年同時期の成績と比べると、やや厳しい戦いを強いられているような印象があります。しかし実際は、2016年には第11戦終了段階でランキング10番手だったのに比べ、今年は第11戦を終えて昨年よりも1つポジションが上の9番手につけています。苦戦傾向の印象を与えるのは、それだけ彼が期待されている証拠とも言えるでしょう。
ホームグランプリを迎えた第12戦のイギリスGPでも、クラッチローはファンや地元メディアから熱い視線を注がれていました。昨年のシルバーストーン・サーキットでは、ポールポジションを獲得し、決勝レースでも2位表彰台に登壇しています。それだけに、今年のレースでは昨年と同様か、さらにいい結果を期待されるのは当然と言えるでしょう。
レースに先立つ木曜夕刻のプレスカンファレンスで、クラッチローは週末のレースに向けた抱負をこのように語りました。
「シルバーストーンに戻ってくるのは、いつも楽しみです。MotoGPのためにも、レースを観に来てくれるファンのためにも、ベストを尽くしてがんばろうという気になります。イギリス人選手にとって、やはり特別な一戦ですからね。今年は3クラスすべてにイギリス人選手がいるので、ファンは応援のしがいもあると思います。今年は接近戦のレースになると思うので、僕もその中でいい走りを披露したいですね。
ここでは何回もいいリザルトを残しているのですが、実はこのサーキットが特別に得意というわけではありません。バンプも多いし、攻略の難しい場所がたくさんありますから。それに、ここにいる選手たち(マルク・マルケス、ダニ・ペドロサ、マーベリック・ビニャーレス、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、ほか)と互角に戦うには、運も味方につけなければならないでしょうね。今年は接近戦になるだろうし、ラップタイムも去年より速くなるでしょう。ランキング上位陣の選手たちは強者揃いなので、僕もがんばって彼らといい勝負をしますよ」
クラッチローは話しぶりこそ謙虚でしたが、やはりホームグランプリだけに、その胸の内にはかなり大きなものを期していたようです。金曜日のフリープラクティス2回を終えて、初日の順位は総合トップタイム。土曜の予選では、0.165秒差でポールポジションこそ逃したものの、フロントローの3番グリッドを獲得しました。




「目標は表彰台です」とクラッチローは述べました。「去年と同様の結果を期待するのは当然だし、達成できると思います。でも、明日はマルクやロッシ選手、ビニャーレス選手がきっと速いでしょうね。応援してくださるイギリスのファンのためにも、僕もいい戦いをしたいと思います」
そしてその後に、できればポールポジションを獲りたかった、という本音もチラリと漏らしました。
「(予選で)2分を切れなかったのは残念ですね。今日の目標は2分を切ることだったのです。実現できていれば、ポールポジションを獲得できていたでしょう。去年は雨でポールポジション、今年はドライコンディションでこの位置です。去年も表彰台を獲得しているので、明日のレースでも当然、表彰台を狙いますよ」
日曜の決勝レースはドライコンディションになり、フロントロー3番グリッドからスタートしたクラッチローは4位でゴール。わずか0.930秒差で惜しくも表彰台を逃す結果に終わってしまいました。
「今日は勝つつもりでレースに臨んでいました。今年の狙いは、ただ表彰台を獲得することではなく、優勝だったのです」
レースを終えたクラッチローは、4位という結果に落胆した様子を隠せませんでした。しかし、その反面ではいい走りをできたという手応えがあったとも話しました。
「パフォーマンスはよかったと思います。もちろん、この結果には納得していませんが、去年よりもレース総タイムで15秒ほど短縮しています。みんなが力を合わせて、週末を通してチームがいい仕事をしてくれました。この結果を前向きに捉えて、次のミサノに臨みたいと思います」
2週間後に行われた第13戦サンマリノGPでは、レースウイーク前にクラッチローは包丁で左手人差し指を切るケガをしてしまいました。負傷箇所の縫合手術を受けたレースウイークに臨み、予選では4番グリッド。日曜の決勝レースは雨の難しいレースになりましたが、クラッチローは13位と健闘し、チャンピオンシップポイントを獲得しました。
シーズンはこれからいよいよ終盤戦。昨年はアラゴンGPや日本GPでトップ5フィニッシュを達成し、オーストラリアGPでは優勝を飾るなど、ここから先は相性のいいコースが続きます。クラッチローとLCR Hondaの勢いがこれからますます増していくことは、間違いないでしょう。
さらに、来季からは日本人ライダーの中上貴晶がLCR Hondaチームに加入し、クラッチローのチームメートになることも先頃発表されました。チームとクラッチローを巡る話題は、これからますます賑やかになっていきそうです。


