
ケガを負いながらもあきらめずに挑み5位フィニッシュ
第16戦オーストラリアGP 会場:フィリップアイランド・サーキット
予選:12番手 決勝:5位
第16戦オーストラリアGPの開催地であるフィリップアイランド・サーキットは、メルボルンから南へ150kmほどの距離にある島、フィリップアイランドの南岸沿いに位置しています。本土とは橋でつながっており、ハイスピードコースでスリリングなライディングと美しい景色のコントラストが人気のコースですが、南極海へ続く海峡に面しているために冷たい風が吹きつけ、不安定な天候になりがちなことで知られています。冷たい雨と風により、今回のレースウイークも気温と路面温度はともに10℃台前半という、厳しいコンディションになりました。

土曜日に行われたMoto2クラスの予選は、現地時間16時5分にスタート。荒れ模様だった週末のコンディションは、ここでようやくドライになりました。IDEMITSU Honda Team Asiaの中上貴晶は、セッション序盤から好調な走りで、決勝に向けたセットアップを見極めながらトップタイムを記録。そして、あと数ラップでいったんピットへ戻ろうとしていたとき、4コーナーでマシンが大きく振られ、ハイサイド転倒を喫してしまいました。

マシンは大破し、中上はコースサイドで身体を起こしたものの、右手を抱えて痛みを堪えている様子でした。その転倒がモニターに大映しになり、IDEMITSU Honda Team Asiaのピットボックスに緊張が走ります。画面の中で痛みを堪える中上の姿は、手首を痛めたか、あるいは最悪の場合、鎖骨を折った可能性を感じさせるような、嫌な雰囲気を漂わせていました。
モニターに映る中上は、やがて少しずつ右腕を上げながら身体の様子を確認し、コースマーシャルに支えられながら、サービスロードへと退避していきます。メディカルセンターで検査を受け、骨折などの大きなケガには至っていないことが確認され、ピットボックスへ戻ってきた中上は、「テレビ画面に映った転倒自体はひどかったのですが、ケガは右肩の脱きゅうでした」と説明しました。
「簡単に説明すると、4コーナーでハイサイド気味になりました。それをなんとか堪えたと思ったら、振られた際に右手が残ってスロットルが開き、大きな転倒になってしまったのが、ちょっと不運でした。マシンから振り落とされて地面に叩きつけられる際に右肩を強打し、『あ、これは関節が外れたな』ということがすぐに分かりました。何秒かじっとしていて、少しずつ腕を上げていくと、幸いうまくはまってくれたのですが、筋を傷めてしまったのでジンジンとした痛みはまだ少し残っています」
この転倒の影響で、予選の残り時間は走行をしませんでしたが、ポールポジションとは最終的に0.623秒差で、4列目12番グリッドから翌日の決勝を迎えることになりました。
「この週末はずっと天候がよくなくて、どの陣営もセットアップがあまり進んでいないので、レースはあまり速いペースにならないと思います。明日がドライコンディションなら十分に追い上げることができそうなので、25周の長丁場に備えて今夜は安静にし、明日は楽しみながら戦いたいと思います」
日曜日午前のウォームアップでは、中上は肩にテーピングを施し、痛み止めを服んで走行しました。このセッションではトップから0.229秒差の5番手タイム。完ぺきな体調からはほど遠いものの、決勝レースを十分に走れそうな手応えを確認しました。
「ウォームアップではゆっくりとスタートしたのですが、『意外に走れるな』という感触で、これならあまり無理をせずに戦えると思いました。例えばこのときの順位が20番手前後でレースにならない状況なら、精神的にも追い込まれたと思いますが、苦しい体調でもこのウォームアップでいい感触を確認できたので、モチベーションを上げていけました。ウォームアップでのテーピングは少し固めにしていたのですが、思いのほか強すぎました。左コーナーはよくても右コーナーで腕が伸びない状態だったので、レース前に可動性を上げるように少し変えてもらいました」
午後2時30分にスタートした決勝レースでは、序盤に14番手まで順位を落としてしまいましたが、そこから安定したラップタイムで前の選手を次々とオーバーテイクし、レース全体の折り返し地点となる11周目には5番手に浮上。その後、トップ集団が目の前に見える距離まで追い詰めましたが、最終的にその位置でチェッカーフラッグを受けました。

「25周のレースは果てしなく長く感じました。序盤はなかなかペースをつかめず、残り10周辺りになると痛みが激しくなって、無理ができない状態になりました」
そのようなつらく厳しい状況でも、中上は最後まであきらめずにベストを尽くし、貴重な11ポイントを獲得したのです。
「前の集団とほぼ同じペースでしたが、少しずつ近づいていたのでチャンスはあると思ってあきらめなかったのですが、現状ではこれ以上は望めませんでした。次のマレーシアGPも連戦なのであまり時間はありませんが、しっかりと身体を休め、少しでもいい状態で週末を迎えたいと思います」