チーム力で不利を跳ね返し、着実な前進
第10戦オーストリアGP 会場:レッドブル・リンク
予選:8番手 決勝:7位
2016年シーズン後半戦は第10戦オーストリアGPから始まりました。19年ぶりの開催となるため、IDEMITSU Honda Team Asiaの中上貴晶は金曜午前のフリープラクティス1回目が、レッドブル・リンクの初走行になりました。
全長4,318mのコースはコーナー数が右7左3と少なく、上り区間の前半はストレートをタイトなコーナーがつないでゆくストップ&ゴータイプの構成です。その後、下り区間になる後半セクションは、流れるようなコーナーが続きます。走行が始まる前の木曜にはスクーターでコースを下見し、コース図などを参考に机上のシミュレーションをしていたとはいえ、実際にMoto2マシンで走行してみると、やはり感触は違います。さらに、初日午前のFP1は気温10℃、路面15℃という真冬のような温度条件で、トップタイムを記録した選手から1秒差という厳しい滑り出しになりました。
しかし、それよりもさらに中上たちの状況を難しくしているのは、毎戦トップを争うライバル陣営の選手たちの中に、ここレッドブル・リンクですでにテストを実施している陣営が少なからずいる、という事実でした。
すでにコースに習熟してデータも蓄積している陣営と比べれば、全くの初走行となった中上たちは大いに不利な状況です。それでも午後のFP2では、トップタイムとの差を0.5秒まで縮めました。しかし、タイム差こそ詰めたものの、この日の中上の順位が9番手であったことを見れば、短時間で不利な状況を覆すのは、やはり容易ではなさそうです。
「すでに100周以上ここを走っているライダーたちとの差は出るだろうと思っていましたが、FP1で1秒あった差をFP2で0.5秒まで詰めたので、タイム差だけでいえば合格点をあげられると思うんですよ。テストのときより速いタイムで皆が走っている中で、自分は2回のセッションでかなり追いつけたわけですから」
午前と午後に計90分のセッションを済ませた中上は、初日の走行をそんなふうに振り返りました。
「現状の課題は、バイクの前後配分です。バランスがまだ十分に取れていないので、フロントのフィーリングがしっくり来なくて、なかなか思いどおりに旋回できていません。今日はメカニックたちも、サーキット初経験の一日になりましたが、2回のFPを走ったことである程度の方向性が見えてきたので、明日からは全員でチーム力を発揮してがんばっていきたいと思います。予選では、もちろんいいグリッドを獲りたいし、チャンスがあればフロントローも狙っていきますが、今回に関してはあまりそこにこだわりすぎず、決勝のペースと強さに照準を合わせて取り組みたいと考えています」
土曜日は前日の冬のような寒さから一転、オーストリア山間部のさわやかな日差しが降り注ぐ、この季節にふさわしい天候になりました。温度条件も上昇し、時間の経過とともにレッドブル・リンク一帯は汗ばむほどの陽気になりました。
午後3時5分から行われた予選では、中上は前日から着実に前進を見せ、セッション終盤のタイムアタックでも自己ベストタイムを更新。日曜の決勝レースに向け3列目8番グリッドを獲得しました。
「最終ラップに区間ベストタイムを更新しながらアタックしていたのですが、セクター4でミスをしてしまい、大幅なタイムアップを果たせませんでした。そのもうひとふんばりをできなかったのは残念ですが、僅差の8番手でトップの(ヨハン)ザルコ選手とのギャップが0.5秒を切ったので、明日の決勝では少しでも前の順位で終えるようにいいレースをしたいと思います。
フロントに関してはまだ問題を抱えていて、ブレーキングでリアが接地しなくてフロント一本で支えている状態なので、明日のウォームアップでそこを改善するつもりです。そこだけですね。全体としては、チーム全員の力で大きく前進できた一日になりました」
日曜の決勝レースは、4,318mのコースを全25周して争います。コーナー数が10個と少なく、しかもオーバーテイクを狙えるポイントも乏しいため、レース序盤の位置取りが大きく順位を左右することになりそうです。
8番グリッドの中上は、スタートをうまく決めてレース序盤からポジションをキープしながら周回を重ねていきました。先頭集団とのわずかなラップタイム差が少しずつ積み重なって、やがてその開きは大きくなりましたが、中上は、自分の走行するグループで巧みにペースをコントロール。終盤にはさらに前をいく選手も射程距離に据えましたが、残念ながらそこで周回数が終了。7位でチェッカーフラッグを受け、9ポイントを加算しました。
「トップ集団とはラップタイムでコンマ数秒の差がありましたが、自分もできる限りペースを落とさずミスもしないようにしながら、毎周プッシュしました。最後にアレックス・マルケス選手を0.7秒差まで追い詰めたのですが、抜けなかったのはとても残念です」
そう語る中上は、今回の7位は手応えと内容の伴うリザルトだ、とも述べました。
「普通なら7位は全然喜べない結果ですが、今回は週末を通して苦労してきた中で、チームの力で現状として最大のパフォーマンスを引き出せました。だから、今日の結果は前向きに受け止めたいと思います。その意味でも、今回のレースウイークはネガティブな要素はありませんでした。言い訳になってしまいますが、僕たちはここでテストをしていなかった不利な状況でも、ギアレシオやセットアップで工夫をして、チーム力で差を詰めていくことができました。だから、次のブルノでは自分たち本来の走りをすれば、必ず結果が出ると思います」
2戦連続開催となる第11戦チェコGPの開催地ブルノ・サーキットは、ポールポジションと表彰台を獲得している中上の得意コースです。「自分たち本来の走り」は、大いに期待をできそうです。