IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

中上貴晶

ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹 カイルール・イダム・パウィ
racereport

悔しい結果に終わるも確かな手ごたえを得る

第9戦ドイツGP  会場:ザクセンリンク
予選:1番手  決勝:11位

第9戦ドイツGPは、コンディションが日々変化する難しいレースウイークになりました。金曜日は晩秋のような寒さで時折り雨の落ちてくる天候、土曜は一転してこの季節にふさわしい汗ばむ陽気、そして決勝レースが行われた日曜は朝からずっと雨模様、と激しい移り変わりがありました。

そんな中でも、IDEMITSU Honda Team Asiaの中上貴晶は、金曜日から一貫して速さを披露し、土曜の予選でポールポジションを獲得する力強さを発揮。ウエットコンディションで始まった日曜のレースは、ポール・トゥ・ウインも期待されましたが、トップを走行中に転倒を喫し、再スタート後に11位という結果になりました。このリザルトは、決して中上とチームが目指していた結果ではありませんが、レースを終えた中上の表情には全力で戦いきった爽やかな達成感も感じられ、チームの雰囲気にも暗さはありませんでした。

残念な結果ではありながらも、彼らがポジティブな姿勢を保ち続けることができた理由はなにか、このレースウイークを振り返りながら探ってみましょう。

午前と午後に各45分のフリープラクティスが行われた金曜日の走行で、中上はともにトップタイム。土曜午前のFP3は僅差の2番手で終えましたが、午後の予選では最後の最後にトップタイムを奪還してタイムシートの最上位につけました。2013年のイギリスGP以来、自身4度目となるポールポジションです。

「FP1からFP3まで、ポジションだけをみると悪くなかったのですが、リアのグリップを改善したいという課題を抱えていました。午後の予選ではチーフメカニックのアイディアでスイングアーム長を一気に14mmほど短くし、フィーリングが大幅に改善しました。彼の仕事を信じているので一生懸命走り、ポールを獲得することができました。ポールポジション獲得賞品の腕時計は、感謝の意味を込めてチーフメカニックにプレゼントしたいと思います。最も大切な明日のレースでは、前戦からの2連勝を飾って初のポールトゥウインを決め、チームに25ポイントを贈るつもりです。天気予報を見ると明日の天候が微妙な様子ですが、ここまで高い水準で安定して走れているので、ドライコンディションなら〈ミスター・アベレージタイム〉で優勝を狙う自信があります!」

そして、日曜は危惧していた通り、朝から雨模様。午後12時20分の決勝レース開始時刻もやはり、雨脚が時折り強くなったり弱まったりするウエットコンディションでした。ポールポジションからスタートした中上は、ウエットでは不安要素があると言っていたものの、序盤周回からトップを走行しました。

全長3671mのザクセンリンクは、一周の距離が短いため、Moto2クラスのレースは29周という長丁場で争われます。序盤からトップの位置につけた中上は、ファステストラップを記録しながらレースをリードしますが、7周目の2コーナーでいきなりフロントが切れ込み、転倒を喫してしまいました。まさに雨に足もとをすくわれた格好です。 グラベルに転がったマシンを引き起こして即座にレースに復帰しますが、ポジションはほぼ最後尾の22番手に下がっていました。降り続く雨の中、中上はそこから追走を開始。上位陣と遜色ないラップタイムで周回し続けました。

この雨で中上が転倒したあとも、多くの選手がコース上のいたるところで次々と転倒。一方、中上は着々とポジションを回復し、全周回数の3分の2を過ぎた19周目には17番手につけて、ポイント獲得を射程圏内に収めました。そして、16、15、14番手と順位を回復して、29周を終えて11位でチェッカー。Moto2クラス全27選手のうち、最後まで走りきってチェッカーフラッグを受けたのは、半数をわずかに超える15名でした。

「ポール・トゥ・ウインで2連勝したかったので、残念というか、チームに申し訳ないのひと言です」

悔しそうな表情はやはり隠しきれません。

「正直なところ、午前のウォームアップが終わった段階で、正直なところ『これは勝てそうにないな』と思うくらいペースもフィーリングも悪く、それを考えれば、レース序盤にトップを走れていたのは少し驚きでした。2コーナーの転倒は、いきなり足もとを取られた格好で、フロントがいきなり切れ込んでしまいました。少し速いペースだったのかもしれないけど、それだけ勝ちたい気持ちが強かったので、余計に悔しいです」

レース復帰後の展開については、11位でゴールできたのは、むしろ奇跡的な印象がある、と語りました。

「多くの選手が転倒する難しいコンディションの中で、最後の最後まであきらめずに走りきりました。転倒さえなければ勝てていたかもしれないけど、ポジティブに考えれば、よく11位に入って5ポイントを取れたな、とも思います」

そこまで話した中上の顔に、ようやく少し笑みがうかびました。

「今回の結果は決して望んでいたものではないし、まさか転倒するとは思ってもいなかったのですが、リスタートしてポイントを取ったことをチームも喜んでくれたので、最低限の恩返しにはなったと思います。でも、本当は5ポイントではなく25ポイントがほしかったですね。この結果をしっかりと反省し、夏休み期間もしっかりとトレーニングを続けます。サマーブレイク明けのオーストリアから、さらに強くなっていいレースをします。チームとライダーに自信はあるので、後半戦もベストを尽くします」

中上とチームの一体感と信頼関係は、一度の転倒で揺らぐようなことはありません。互いに全力を尽くした内容を称えあいながら、この結果を謙虚に受け止めて前進を続ける中上貴晶とIDEMITSU Honda Team Asia。シーズン後半戦にたくましさを増して、さらに力強いレースを見せてくれることでしょう。