IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

中上貴晶

ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹 カイルール・イダム・パウィ
racereport

111戦目にしてつかんだ歓喜の初優勝

第8戦オランダGPで、IDEMITSU HondaTeam Asiaの中上貴晶が初優勝を達成しました。2012年にMoto2クラスへの参戦を開始してから5シーズン目、125cc時代も合わせると、111戦目の快挙です。

これまでにも中上は何度も表彰台を獲得していますが、優勝だけは手が届きそうで届かない場所にありました。今シーズンは、予選まではいい内容でセッションを積み上げていくものの、決勝では好結果を残せないレースが続きました。しかし前回のカタルニアGPでは3位表彰台を獲得したこともあって、今回のレースウイークは前戦以上の結果を臨む意気込みで入りました。

オランダGPが行われるTTサーキット・アッセンは、“Cathedral of Speed(ロードレースの大聖堂)”と呼ばれる特別な地です。レース自体は1920年代から連綿と続く歴史を持ち、ロードレース世界選手権が始まった1949年から毎年同一会場で大会が開催されている唯一の場所でもあります。

またアッセンは、めまぐるしく変わる天候も有名で、セッション中に雨が降ったかと思うと、あっという間に路面が乾いていく予測不能なコンディションが選手やチームを悩ませます。今年のレースウイークはドライコンディションで始まりましたが、週末に向けて下り坂の予報で、予断を許さない状況になりそうです。

中上貴晶

第8戦オランダGP  会場:TTサーキット・アッセン
予選:6番手  決勝:優勝

金曜日の走行は、午前のFP1でトップタイム、午後のFP2は2番手と快調な滑り出しになりました。今までのアッセンでのレースを振り返ると、自己ベストリザルトは12年の12位ですが、かつての相性の悪さを払拭するような走りができていると言えそうです。

「過去のことは過去のこととして気にせず、今日はいい順位で終えることができました。楽しく走れているし、今までのレースで課題だった序盤にタイムを上げる取り組みも順調に進んでいます。この内容を、日曜のレースにうまくつなげていきたいし、そのためにも明日の予選ではポールポジションを狙っていきます」

中上貴晶

土曜日は午前のFP3のセッション中に雨が降り、午後の予選でも途中から雨が降り始めました。やはり今年のオランダGPも、気象条件が各陣営の動向を大きく左右する重要な要素になりそうです。どんなコンディションにも対応するために、予選中盤の雨の中、中上は真っ先にコースインし、ウエット用のセットアップを確認する作業に取り組み続けました。

セッション序盤に記録したタイムで予選順位は6番手となり、決勝は2列目から迎えることになりました。

日曜午前の20分間のウォームアップで、中上はトップタイムを記録。午後の決勝に向けて順調に仕上がっていることは、第5戦フランスGP以来、4戦連続のウォームアップ最速という事実にも表れています。

そして、午後12時20分に始まった全24周の戦い、コンディションはドライ。あとは中上自身の手にレースの行方がゆだねられました。

うまくスタートを決めてトップグループにつけた中上は、序盤の錯綜した状況でも落ち着いて見極めながら確実にポジションを上げ、先頭に立ってからはレース中に最速タイムを連発して、一気に後続を引き離します。これらのファステストラップが今週末の自己ベストタイムであったところを見ても、この決勝で充実した走りを実行できていることがわかります。

やがて雨が降り始めてどんどん雨脚が強くなり、残り2周となったところでレッドフラッグが振られてレースが中断。21周終了段階の順位でレース結果が確定しました。

中上貴晶

「セクターごとに天気や路面状況が異なっていたので、レッドフラッグは適切な判断だったと思います。チェッカーフラッグを見られなかったのは残念ですが、最後までレースが続いていても間違いなく優勝をできていたと思います」

と話す中上は、「本当にうれしいです。優勝したのは11年の全日本以来だから……長かったですね!」と大きな笑みを浮かべました。

「レース序盤の混雑した状態でも、落ち着いて対応できました。レースペースがほかの選手たちよりもいいことはわかっていたし、この週末を通して取り組んできたことを出し切れば勝てる自信があったので、気持ちに余裕を持って走ることができました。トップに立ってからは、後ろとの差を見ながら安定したラップタイムで走るように心がけていました。後ろとの差がどんどん開いていったので、『これはもらったな』という手応えでした」

この優勝でチャンピオンシップポイントに25点加算したことにより、中上はランキング5位へと浮上しました。第8戦を終え、16年シーズンはまだ10戦を残しています。ここから先の中上貴晶とIDEMITSU Honda Team Asiaの目標は、この調子で好成績を続け、ランキング上位にさらに追いつくことです。