IDEMITSU Honda Team Asiaの挑戦

中上貴晶

ラタパーク・ウィライロー 尾野弘樹 カイルール・イダム・パウィ
racereport

不完全燃焼に終わった開幕戦

2016年、中上貴晶にとって5年目となるMoto2クラスのシーズンが始まりました。IDEMITSU Honda Team Asiaで戦うのは今年が3年目。激戦のMoto2クラスで、チャンピオン争いを繰り広げてその頂点に立ち、そして来シーズンには最高峰クラスへステップアップを遂げる。それが今年の中上の目標です。

そのためには、開幕戦からしっかりとした走りで結果を出しておくことが重要。プレシーズンテストから中上は好調さを発揮し、スペイン・ヘレスで行われたIRTAテストでは、3日目にトップから0.297秒差の4番手タイム記録するなど好発進の内容でした。翌週には開幕戦の地、カタール・ロサイルで3日間のテストを実施しましたが、ここでも最速タイムから0.410差の総合6番手。開幕戦に向けて戦闘力を着々と整えていることは、数字にもしっかりと反映されていました。

そのままチームとともにカタールに残り迎えた開幕戦、カタールGPの最初の走行は3月17日午後6時55分からスタートしました。

中上貴晶

開幕戦カタールGP  会場:ロサイル・インターナショナル・サーキット
予選:9番手  決勝:14位

開幕前の事前テストで、ロサイル・インターナショナル・サーキットの自己ベストを更新する1分59秒815をマークした中上は、レースウイーク初日の走行でそのときのタイムに迫る1分59秒996を記録し、この日の8番手につけました。機械的な事象からクラッチの操作感やシフティングに課題を抱えていたため、多少のストレスを抱えながらの走行になった中でのこのタイムは、まずまずのスタートといえます。

チームスタッフがこの日の夜半までかかって事象の原因を究明・解決し、翌日のマシンはストレスなく走れる状態になりました。2日目のセッションは、何周も走った後のユーズドタイヤを使用して、決勝レース中盤から後半のシミュレーションを実施。その状況の中、高い水準でラップタイムを維持することに集中しました。レースを想定したペースも良好な感触。ここまでの流れは順調といえそうです。

中上貴晶

カタールGPはナイトレースで実施されるために、ほかのレースウイークとは異なったスケジュールでセッションが行われます。通常なら、金曜日の午前と午後に2回のフリープラクティス、土曜日は午前にフリープラクティスと午後にグリッド順を決定する予選、そして日曜の午後に決勝レースというスケジュールで推移します。しかし、開幕戦は日没後の走行となるために、いつもより一日早い木曜日から走行を開始し、金曜日までフリープラクティスを行って土曜日に予選、そして日曜日の夜に決勝レースという流れになります。

金曜のフリープラクティスを終えた段階で、中上は予選で2列目6番グリッドまでに入ることを目標にしていましたが、予選では、9番手タイムで3列目からのスタートとなりました。理想的な位置とはいえないものの、それでもポールポジションからのタイム差は非常に小さく、レースに向けて悪くない位置取りを確保できました。

開幕戦の決勝レースは、午後7時20分にスタート。サーキットを取り囲む照明の中、全20周で争われました。レッドシグナルの消灯と同時にスタートしたレースで、中上は1周目からトップグループにつけました。この開始直後のオープニングラップで、4名の選手に対してジャンプスタートによるライドスルー・ペナルティーの適用が通告されました。さらに次の2周目、先頭集団で快調に走行を続けていた中上ともう1名の選手に対しても、同様にライドスルーペナルティーが告知されました。ジャンプスタートとは、レーススタート時のグリッド上でフライングをしてしまうことを指します。ライドスルーはそれに対する罰則で、これを通告された選手は、レース中にコースからいったんピットレーンを通過し、再びコースに戻る、という走行をしなければなりません。ピットレーンの速度は時速60kmと定められているため、ここを通過することにより選手たちは順位を大きく下げるペナルティーを科されるというわけです。

トップ争いの3番手につけていた位置からこのライドスルーを消化した中上は、順位を大きく落とし、8周目には21番手に下がっていました。しかし、ラップタイムはトップ争いの選手たちと同様の2分00秒中盤を維持しており、やがて前にいる選手をひとり、またひとりとオーバーテイクしながら確実に順位を回復していきました。さらにタイムを上げながら、14周目には1分59秒997のレース中自己ベストをマークし、前を追い続けていきます。そしてレース終盤には、ポイント獲得圏内への復帰を果たしました。

この段階で優勝争いを繰り広げていた選手に対してもジャンプスタートという裁定がくだり、この選手を含む合計2名にはライドスルーではなく、レース終了後に20秒のタイムペナルティーが付加されました。レギュレーションでは、ライドスルーが不可能な場合には20秒のタイムペナルティーを与えると記されていますが、ジャンプスタートの通告はレース開始後4周以内に通告されなければならないとも定められているのです。ともあれ、奇妙な展開になった20周のレースを終えて、中上は14位のチェッカーフラッグを受けました。レースを終えてピットに戻ってきた中上は、不本意な表情を隠そうともしませんでした。

中上貴晶

「自分の感覚ではシグナルが消えた瞬間にスタートを決めたつもりだったのですが、レースディレクションの裁定は受け入れます。ただ不完全燃焼のレースだったのは事実で、全力で走りきった感覚がないまま終わってしまい、とても悔しい開幕戦になってしまいました。ライドスルーのあとも、トップと遜色のないタイムで走れていただけに、本当に残念です。ペナルティーがなければ、少なくとも表彰台争いはできていただろうし、優勝も射程圏内に入っていたと思います。最後まであきらめずに走って2ポイントを獲得できたことを、今は前向きに捉えたいと思います。シーズン終盤戦のタイトル争いがし烈になってきたとき、『あのときしっかり2点を獲得したことが、チャンピオン獲得の決め手になった』と言えるように、これからの17戦を全力で戦います」

第2戦アルゼンチンGPは、中上とIDEMITSU Honda Team Asiaにとって、今回の雪辱を果たすための重要な一戦になります。