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アジアの旋風

第5回Rd13〜Rd15・日々新たなり

第13戦サンマリノGPから、IDEMITSU Honda Team Asiaに新たな戦力が加わりました。マレーシア人ライダーのアズラン・シャー・カマルザマンです。

マレーシア・セランゴール出身のアズランは、2003年からレース活動を開始。2011年には初参戦した鈴鹿4時間耐久ロードレースで優勝を飾り、海外参戦チーム初勝利ということもあって、一躍大きな注目を集めました。参戦しているアジアロードレース選手権のスーパースポーツ600クラスでも毎年トップ争いを繰り広げ、13年シーズンは最終戦を残して、現在はランキング首位に立っています。今年7月の鈴鹿8時間耐久ロードレースでも、Honda Team Asiaから参戦して6位に入賞。日本のファンにもすっかりおなじみの選手といっていいでしょう。

アジア地域のレースをよく知るアズランも、世界選手権はこれが初参戦。イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリを走行するのも、もちろん初めての経験です。

「なにしろすべてが初めて尽くしのレースだったので、非常に緊張しました」と、アズランはサンマリノGPを振り返ります。

「Moto2はとてもレベルが高く、いろいろなことを考えて緊張もしましたが、世界選手権という舞台で走れることはとても幸せで、この新しい環境の中でレースを楽しむことができました。アジアロードレース選手権も排気量は600ccですが、あちらはスーパースポーツで、同じ600ccでもMoto2とは全く異なるマシンです。マシンのセッティングや自分のライディングなどについて、Moto2のマシンで学ぶべきことがたくさんあることを実感しました。自分のレベルをどんどん高めて、マシンもさらによくしていき、チームのためにもいいリザルトを獲得していきたいと思います」

Moto2初レースで完走を果たし、24位で終えたアズランとチームは、本拠地のフランス・アレスでトレーニングを重ねて次のアラゴンGPに備えました。2週間後に開催されたアラゴンGPは、スペインの内陸部に位置するモーターランド・アラゴンで開催されました。

ホームレースのスペイン勢が意気盛んになるこの大会で、アズランは初日の金曜に29番手、2日目の土曜日の予選では26番手と少しずつコースに順応し、順位を上げていきました。日曜のレースでも、さらに上位を狙う意気込みで決勝のグリッドにつきましたが、6周目の12コーナーでフロントを滑らせてしまい転倒。残念ながらリタイアを喫してしまいました。

そして、2013年のカレンダーはいよいよ終盤戦となり、ヨーロッパを離れてアジア・太平洋諸国を巡る3週連続のレースを迎えました。その口火を切るマレーシアGPは、アズランのホームグランプリです。戦いの舞台、セパン・サーキットはまさに地元だけあって、取材やイベント対応など、アズランにとっては多忙なレースウイークになりました。

「ここはとてもよく知っているコースですので、自分のためにもチームのためにも、そして応援してくれるファンのためにもいいレースにしたいと思います。決勝レースは、可能ならポイント圏内のトップ15で終わることを目指したいと考えています」

「2分9秒台のタイムを目指したい」と話していたアズランですが、金曜午後のフリープラクティス2回目で、新しいタイヤに交換してコースインした際に転倒を喫してしまい、目標にわずかに届かない2分10秒469のタイムで初日の走行を終えました。

土曜日午後の予選でも、最終コーナーでハイサイド転倒を喫してしまい、不本意な27番グリッドから決勝レースを迎えることになりました。日曜の決勝は19周で争われる予定でしたが、オープニングラップの14コーナー出口で複数の選手が絡み合うマルチクラッシュが発生したために、進行が中断。幸いにも深刻なケガを負った選手はいませんでしたが、このアクシデントにより、レースは仕切り直し。再びオリジナルグリッドからスタートして12周で争われました。

自身の転倒などが影響して、決勝に向けた十分なセットアップを詰めきることはできませんでしたが、それでもこのレースでアズランは経験豊富なMoto2ライダーたちと争いながら最後まで走りきり、22位でチェッカー。会場を埋めた大勢のマレーシアのファンからも大きな声援を受けました。

「今日は、レースウイークの3日間でも最も気温が高くなりましたので、タイヤに厳しく、十分なトラクションを確保することができませんでした。2分9秒でラップすることを目標にしていましたが、レース序盤に2分10秒台で周回できたものの、あとはずっと11秒台になってしまいました。金曜と土曜に転倒を喫してしまったために、十分なセットアップを積み上げることができず、それが影響してしまったことが残念です。厳しいレースになってしまいましたが、それでも最後まで走り抜いて完走できたのは今後に向けてもポジティブな要素だと思います。しかし、マシンの切り返しなどに課題があり、まだまだ多くのことを学び取っていかなければなりません。次のフィリップアイランドも初体験のコースですが、一刻も早くマシンに順応し、早く上位を目指せるようになりたいと思います」

監督の岡田忠之は、マシンを切り返す際の苦労やトラクション不足に悩むアズランの現状を打開するためにも、着座位置や旋回中の姿勢が重要なポイントの一つになるだろう、と話します。

「速いライダーは、コーナリングでマシンの前の方に乗ってスライドさせながら旋回していきますが、遅いライダーは後ろに乗ることで荷重をかけてリアグリップを求めようとする傾向があるようです。アズランが切り返しに苦労するというのも、このライディングのためにフロントの反応が遅れてくることとも関係しているのかもしれません。そのことについては、彼ともすでに話をしています。アズラン自身はコーナー進入のスライドもできる選手で、滑ることに対しては抵抗がないので、今後の伸びしろは十分にあると思います。しかし、そうはいってもライディングスタイルを一朝一夕で変えるのは難しいので、マシンでそういうことを試せるきっかけを作ってあげて、ライダーがどんどんトライしていけるような環境を整えていきたいと思っています」

3週連続レースの2戦目、オーストラリアGPが行われるフィリップアイランド・サーキットは、セパンと対極の低い温度条件と海から吹き寄せる風に悩まされることでも有名なコースです。チームとアズランにとっては、また新たなチャレンジと試練の一戦ですが、そこでさらに経験と学習を重ねたあとは、いよいよチーム、そしてタイトルスポンサーである出光興産のホームGP、ツインリンクもてぎを戦いの舞台とする日本GPが待っています。

自分たちの前に立ちふさがるさまざまな課題をすべて学習材料として吸収しながら、一歩一歩確かな足取りで経験を重ねていくアズラン・シャー・カマルザマンとIDEMITSU Honda Team Asiaの着実な成長に、今後も期待が集まります。