Hondaをはじめとした日本メーカーのGP撤退で、1967年を最後に日本GPはいつ終わるとも分からない長い休止期間に入った。しかし、直後にヤマハはGP活動再開を表明し、スズキも70年代に再びGPへカムバックしたのである。
Hondaはというと、4輪F1、あるいは4輪市販車の開発に注力していたため、68年から11年間もの期間に渡ってGP活動を休止していた。その間に、ヤマハとスズキはGPの頂点である500ccで集中的に活動し、激しくそのスピードを争うと同時にGPにおける覇権を確立していた。少し遅れてカムバックしたカワサキによる250ccと350ccという中間排気量の制覇も忘れてはならないだろう。
世界GPの70年代は「王者MVアグスタの終焉」と「日本メーカーによる支配」で形づくられた。そんな状況の中、1979年にHondaは再び挑戦者としてGP活動再開を果たし、同時に様々なカテゴリーのレースで積極的な活動を開始したのである。結果的には、バブル経済へ向かおうとする日本経済の好況もあって、Hondaのレースへのカムバックは、日本国内にかつてない2輪レースブームをもたらすきっかけとなった。
なにしろ、この当時は世界GPでは初めて日本の4メーカーの500ccワークスマシンが揃い、鈴鹿8耐をはじめとする耐久レースでもHonda、スズキ、カワサキ、あるいはHonda、ヤマハ、スズキと、3メーカーのワークスマシンが走っていたほどだ。2輪レースの専門誌が相次いで登場したのもこの頃だ。
しかし、現在のようにインターネットによるリアルタイムの情報伝達手段が無かった当時はGPの情報が極端に少なく、多くのレースファンは早くてもそのレースからほぼひと月遅れで発行される雑誌の記事をむさぼり読み、その写真を食い入るように見つめて、遠く離れたヨーロッパに思いを馳せるしかなかったのである。
最新のワークスマシンは全日本選手権でも走っていたが、日本GPという名称で行われていた全日本最終戦や鈴鹿8耐でのスポット参戦、あるいはシーズンオフのレースイベントだったTBCビックロードレースが、“彼ら”の走りに触れることのできる唯一の機会だった。レースファンのGPに対する渇望は大きく膨らみ続けた。特に、ヤマハの平忠彦という一般大衆にも認知されたスターライダーの出現と彼のGP参戦が、その夢をより一層加速させたと言ってもいい。
そして1987年。前述のようなレース人気と潤沢な資金を背景にして、20年ぶりに日本GPが鈴鹿で再開される事になった。また、同じ年に10年ぶりとなる4輪F1GPも鈴鹿で開催が決定し、日本のモータースポーツ界は2度目の夜明けを迎えたのだ。
記念すべき1987年の日本GPはシリーズ開幕戦として、500ccと250ccの2クラスが開催された。しかし、生憎の雨模様となり、ほとんどのGPライダーにとって初めてのコースとなる鈴鹿、しかも開幕戦とあって多くのライダーは慎重にならざるを得なかった。
そんな状況下で日本初開催となる500ccは、レインスペシャリストと呼ばれる雨を得意とするライダーの活躍に始終した。まず、スタートダッシュが巧妙な事で“ロケット・ロン”の異名をとるElf-Hondaのロン・ハスラムが飛び出しレースをリードする。
これをHondaのガードナーが追うが、やがて“レイニー・マモラ”のニック・ネームで呼ばれるほど雨中のレースを得意とするヤマハのランディ・マモラがトップに立つと快走。この年にチャンピオンになるHondaのワイン・ガードナーに40秒以上の差をつけて独走優勝した。
3位にはスズキの開発ライダーだった伊藤巧、以下にHondaのピエール・フランチェスコ・キリ、ハスラム、そしてヤマハの平、河崎裕之と、ガードナー以外は、雨を得意とするGPライダーや開発ライダーの経験を持つ日本人ライダーが上位を独占した。
250ccの予選では、この年に全日本チャンピオンを獲得し、GPにスポット参戦する事になるHondaの清水雅弘が驚異的なタイムでトップを奪い、決勝では1985年&86年の全日本250ccチャンピオンであるHondaの小林大が、2位のシト・ポンスに30秒近い差をつけて独走優勝。小林を含めて上位10位以内に4名の日本人ライダーが入るなど、地元での悪天候を味方に付けた結果となった。
とはいうものの、それまで鈴鹿を何度も走り、85年の鈴鹿8耐では劇的な逆転優勝を見せつけ、日本での人気や知名度も高かったガードナーを遙か後方に置き去ったマモラの巧妙な走りや、GPライダーと互角以上に戦った日本人ライダーの活躍に多くのレースファンは沸き立った。
そして翌年、ゼッケン1を付けたHonda NSRに乗るガードナーは、新たなライバルの登場によって、日本GP史上に残るエキサイティングな戦いを展開する事になる。
1位 | ランディ・マモラ | ヤマハ | 57分22秒880 |
2位 | ワイン・ガードナー | Honda | 58分05秒270 |
3位 | 伊藤 巧 | スズキ | 58分14秒180 |
4位 | ピエール・フランチェスコ・キリ | Honda | 58秒43秒240 |
5位 | ロン・ハスラム | Elf-Honda | 58分45秒830 |
6位 | 平 忠彦 | ヤマハ | 59分01秒560 |
7位 | 河崎 裕之 | ヤマハ | 59分02秒950 |
8位 | ロジャー・バーネット | Honda | 59分31秒140 |
9位 | 片山 信二 | ヤマハ | 59分39秒220 |
10位 | レイモン・ロッシュ | カジバ | 59分51秒60 |
1位 | 小林 大 | Honda | 51分15秒600 |
2位 | シト・ポンス | Honda | 51分42秒610 |
3位 | ラインハルト・ロス | Honda | 51分43秒150 |
4位 | 清水 雅弘 | Honda | 51分54秒710 |
5位 | マーチン・ウィマー | ヤマハ | 52分06秒110 |
6位 | ファン・ガリガ | ヤマハ | 52分17秒20 |
7位 | パトリック・イゴア | ヤマハ | 52分23秒270 |
8位 | アントン・マンク | Honda | 52分53秒670 |
9位 | 田口 益充 | Honda | 52分46秒490 |
10位 | 山本 隆義 | Honda | 53分41秒660 |