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MotoGP学科

ファクトリーオプションと
オープンカテゴリー 条件改定の話

21限目

「ファクトリーオプション」vs「オープンカテゴリー」の条件改定

いよいよ2014年シーズンのMotoGPが始まった。MotoGPクラスのライダーたちが戦うマシンは、排気量に関しては昨年と同じ1000ccだが、今年からECU(Electronic Control Unit:エレクトロニック コントロール ユニット)ソフトウェアの種類によって「ファクトリーオプション」と「オープンカテゴリー」という分類に分かれることになった。

RC213V

MotoGPを運営するDORNA(ドルナ)が配布する共通ECUソフトウェアを使用する車両がオープンカテゴリー、メーカーが独自に記述するソフトウェアを使用する場合はファクトリーオプションという区分だ(20時限目「ファクトリーオプションとオープンカテゴリーの話」参照)。

当初、このクラス内分類は、昨年までのプロトタイプとCRT同様に、各メーカーのファクトリーとサテライトチームがファクトリーオプション、プライベート系チームがオープンカテゴリーのレギュレーションで戦うことを想定したものだった。しかし、プレシーズンテスト終了直前に、プロトタイプマシンに共通ECUソフトウェアを使用してオープンカテゴリーへ参戦するチームが現れた。

今シーズンのファクトリーオプションとオープンカテゴリーの区分は、マシンがファクトリー製作のプロトタイプであるかどうかで分類するのではなく、DORNAが支給する共通ECUソフトウェアを搭載しているかどうかで区分けする。つまり、メーカーが製作したプロトタイプマシンを使用するファクトリーチームでも、共通ECUソフトウェアを使用している場合にはオープンカテゴリーの分類になり、プライベートチームのマシンでも、自分たちが独自で記述するECUソフトウェアを搭載して参戦する場合には、ファクトリーオプションという区分になる。

しかし、この複雑な状態は、レースを観戦するファンに混乱と誤解を招く原因にもなりかねない。同一条件でだれが一番速いかを決める明解なはずのレースが、このルールのためにかえって分かりにくくなってしまう事態を避けるために、グランプリコミッションは次のようなルールの改定を行い、開幕戦カタールGPのレースウィーク直前に発表を行った。

その文言は以下の通り。

1.「チャンピオンシップECU」とソフトウェアは、2016年以降の全エントリーに対して必須になる。
 MotoGPクラスの現参加者および参加予定者は、チャンピオンシップECUソフトウェアの設計開発に協力して携わるものとする。
 ソフトウェア開発の期間中、参加者がソフトウェア開発を監視し、修正提案を盛り込むことができる、関係者専用ウェブサイトを設ける。
2.以下を即時発効とする。ファクトリーオプションで参戦し、前年にドライコンディションで勝利を挙げていない製造者、あるいは新規参戦の製造者は、選手1名あたり(開発を凍結しない)12基のエンジン使用と24リットルの燃料、およびオープンカテゴリーと同一のタイヤ供給とテスト回数を許可する。この特例は2016年シーズンの開始まで有効とする。
3.上記の特例は、以下の条件により低減されるものとする。
 上記の条項2にもとづく条件で参戦する、同一製造者の選手、あるいは複数の選手が、2014年シーズン中にドライコンディション下のレースで1回の優勝、2位を2回、あるいは3回の表彰台を達成した場合、当該製造者の燃料タンク容量は22リットルに減少する。また、その当該製造者が2014年シーズンに3勝を挙げた場合、オープンカテゴリー用のソフトタイヤを使用できる権利が失効する。
 いずれの場合も、特例措置の低減は、2014年シーズンの残存イベントと2015年シーズン全てに対して適用する。
※2016年より導入が予定されているMotoGPクラスを戦うすべての車両が使用する共通ECUのこと

1. The Championship ECU and software will be mandatory for all entries with effect from 2016.
All current and prospective participants in the MotoGP class will collaborate to assist with the design and development of the Championship ECU software.
During the development of the software a closed user web site will be set up to enable participants to monitor software development and to input their suggested modifications.
2. With immediate effect, a Manufacturer with entries under the factory option who has not achieved a win in dry conditions in the previous year, or new Manufacturer entering the Championship, is entitled to use 12 engines per rider per season (no design freezing), 24 litres of fuel and the same tyres allocation and testing opportunities as the Open category. This concession is valid until the start of the 2016 season.
3. The above concessions will be reduced under the following circumstances:
Should any rider, or combination of riders nominated by the same Manufacturer, participating under the conditions of described in clause 2 above, achieve a race win, two second places or three podium places in dry conditions during the 2014 season then for that Manufacturer the fuel tank capacity will be reduced to 22 litres. Furthermore, should the same Manufacturer achieve three race wins in the 2014 season the manufacturer would also lose the right to use the soft tyres available to Open category entries.
In each case the reduced concessions will apply to the remaining events of the 2014 season and the whole of the 2015 season.

 そして、さらに上記の第3項が規定する各条件をより明確に説明するため、として、開幕戦のウイーク中3月22日(土)に、より厳密な文言へ修正したものが発表になった。第3項の修正内容は以下の通り(太字部分が改訂部分。下線は、追加・修正された文言)

3.上記の特例は以下の条件により低減されるものとする。
 上記の第2節にもとづく条件で参戦する、同一製造者の選手、あるいは複数の選手が、2014年および/もしくは2015年シーズン中にドライコンディション下のレースで1回の優勝を達成、2位を2回あるいは3回の表彰台を集積した場合、当該製造者の燃料タンク容量は22リットルに減少する。また、その当該製造者が2014年および/もしくは2015年シーズンに3勝を集積した場合、オープンカテゴリー用のソフトタイヤを使用できる権利が失効する。
 いずれの場合も、特例の減弱は、2014年シーズンの残存イベントと2015年シーズン全てに対して適用する。

3. The above concessions will be reduced under the following circumstances:
Should any rider, or combination of riders nominated by the same Manufacturer, participating under the conditions of paragraph 2 above, achieve a race win, or accumulate two second places or three podium places in dry conditions during the 2014 and/or 2015 seasons then for that Manufacturer the fuel tank capacity will be reduced to 22 litres. Furthermore, should the same Manufacturer accumulate three race wins in the 2014 and/or 2015 seasons the manufacturer would also lose the right to use the soft tyres available to Open category entries.
In each case the reduced concessions will apply to the remaining events of the 2014 season and the whole of the 2015 season.

RCV1000R

今回のルール改正が意味すること

今回のルール改定と発表は、条項2と条項3に大きな注目が集まっているが、条項1の示す意味も大きい。この条文規定では、2016年からMotoGPクラスを戦うすべての車両は共通ECUソフトウェアを使用しなければならない、と定義しているからだ。

共通ECUソフトウェアを必須とするにあたり、各メーカーのマシンに対してソフトウェア動作に有意な差異が生じないよう、設計開発段階でメーカーが関与できるようにしていることは、公平性の担保という面でも意義が大きい。この共通ECUソフトウェアの設計開発と公平性の維持に関しては、今後もさまざまな提案や調整が行われることになるだろう。

各メーカーのマシンによってソフトウェアの機能に差が生じるようなことがなく、それぞれのマシン特性を存分に発揮できるようなソフトウェアを作りあげるためにも、慎重で綿密な協議と開発が行われることを期待したい。

条項2が示しているのは、独自ECUソフトウェアを使用してファクトリーオプションで参戦するチームでも、2013年にドライコンディションで優勝していないメーカーは、オープンカテゴリーと同一の緩やかな制約条件で参戦できる、ということを意味している。

ただし、条項3が示すように、優勝、もしくは2位を2回、あるいは3位表彰台をその陣営に所属する選手が合計で獲得すれば、マシンの燃料容量は24リットルから22リットルへと減少する。また、優勝を達成した場合には、以後のレースでオープンカテゴリーと同一の(ファクトリーオプションよりも)ワンステップ柔らかいコンパウンドのタイヤは使用できなくなる。

もうひとつ注意しておきたいのは、この表彰台獲得後などの権利逸失だが、エンジン使用基数制限や開発凍結などについては、これらの条文では特に言及はされていない、ということだ。つまり、条項2の条件で参戦するメーカーは、優勝や表彰台獲得回数のいかんにかかわらず、エンジン開発に関しては引き続きオープンカテゴリーと同様の条件で継続参戦できる、ということだと思われる。

2014年と2015年に有効とされるこのルールは、従来と比べてやや複雑に見えるのも事実だ。しかし、最速を競う選手たちが繰り広げる優勝争いの興奮は、いつも通り、なにも変わることはない。Honda勢の選手たちとライバル陣営のスリリングな手に汗握る戦いは、今後も11月の最終戦まで連綿と続いてゆく。