「最高。わたしたちファンはずっと一緒だからね。チュッ」
■では、ここからダニを応援する人々の姿を本格的に紹介するとしよう。まずはコースサイドの横断幕から。いうまでもなく、どの国でも一番多いのは自国選手を応援する横断幕だ。スペイン人ライダーは人数も多く、小排気量クラスの選手が続々と台頭しつつあるものの、それでもやはり、ダニの人気が一番高いことは横断幕の数を見れば一目瞭然。とはいっても、ダニ自身まだ最高峰3年目の22歳にすぎない。競技者として脂がのってくるのは、まだまだこれからだ。5年10年と戦い続けた頃に、この横断幕の数はいったいどこまで増えるのやら。
■パドックやグランドスタンド裏を歩いてみると、ダニを応援する人々の圧倒的な数とその熱気を改めて思い知らされる。老若男女の区別なく、ありとあらゆる人たちが自分たちのヒーローに大きな期待を寄せている。彼ら彼女らのそんな思いを125cc時代からを一身に背負い、そしてそれに見事に応え続けてきたのだから、最高峰でチャンピオンを争う現在、ダニの人気が一層大きくなるのも当然だろう。バイクにまたがったとたん真摯な表情に切り替わるプロフェッショナルな姿勢と、びっくりするくらい愛嬌のある笑顔。その両方が、ファンにはきっとたまらない魅力なのだ。
■スペインは、とにかくモータースポーツが盛んなお国柄である。スポーツの競技ジャンルは数多あるとはいえ、ダニの認知度はおそらく確実にトップ5に入るだろう。テレビCMや新聞、雑誌広告で、毎日ごく普通に見かける顔なのだ。名前と顔が知られていないわけがない。そんななかでも、とりわけレースとダニを愛する十数万人の人々がサーキットへ押し寄せるのだから、混雑するなというほうが無理な相談だ。「スペインに住んでいると、いつも注目されているから自分が偉くなったと勘違いしてしまうかもしれない。だからロンドンに引っ越したんだ」かつてダニは、そんなふうに話していたことがあった。自らを戒める謙虚な姿勢が、いかにも彼らしい。
■レースはダニの圧勝劇だった。07年最終戦バレンシア、08年第2戦ヘレスに続き、スペイン3連勝。しかも、ヘレス同様、カタルニアサーキットでも125、250、MotoGPの3クラスを制覇である。同じ日、テニス界ではラファエル・ナダルが全仏オープン4連覇という偉業を達成し、全国紙や地方紙を問わずあらゆる新聞がこの2人の勇姿を第一面に大きく掲載した。テレビでも、スポーツコーナーはこの2人の話題がトップニュース。朝、新聞を小脇に抱えて仕事に向かう人々の姿がなんとなく誇らしげに見えたのは、あながち気のせいではなかったのかもしれない。