正面ゲートを抜け、グランドスタンド入り口を見上げると、この写真が観客を出迎える。
■バルセロナ郊外のカタルニアサーキットは、ダニ・ペドロサの生まれ故郷サバデルからも車で数十分の距離。今回は、まさに文字どおりのホームグランプリである。スペインのレースならどこでも熱狂的な歓迎を受けるが、特にここカタルニアサーキットはカタルニア人のダニにとって最も特別な場所だ。そのサーキットのグランドスタンド裏には、通称<チャンピオンズロード>と呼ばれる場所があり、二輪四輪を問わず、モータースポーツ界に名を残す選手たちの写真と粘土板プレートのサインが飾られている。昨年、ここでグランプリが行われた際に、ダニもその中に加わり、プレートの除幕式が行われた。展示されている写真は、そのときに撮影されたものだ。サーキットを訪れる人々はほぼ例外なくこの写真を見上げ、プレートのサインをしげしげと眺めながら前を通りすぎてゆく。
■カタルニアサーキットの竣工は1991年。今年で17回目の開催となる。会場を訪れるファンは、ダニに限らずスペインの全選手に熱烈な声援を送る。今季、グランプリに参戦するスペイン人選手は125ccクラス9人、250ccクラス7人、MotoGPクラス3人。二大バイク週刊誌『SoloMoto』と『Motociclismo』は、毎戦グランプリを数十ページという規模で大きく扱う。両誌とも、かつては水曜発売だったが、現在は激しい販売競争の結果、ともに火曜発売へと一日前倒しになった。レースの翌々日に記事を満載した雑誌が店頭に並ぶわけで、ロードレースを巡る環境の充実度合いは世界でも群を抜いている。国王フアン・カルロス1世にしてからがロードレースファンというお国柄なのだから、それも当然かもしれない。
■スペインではテレビ放映も充実している。実況を行う国営放送局テレビシオンエスパニョーラ(TVE)はパドック内に仮設スタジオを設営し、現場情報を逐一フォローする。朝昼夜のニュースでも、レポーターがその日の様子を伝える。需要があるから供給が発生するのか、充実した供給があるから需要が増大するのか、鶏が先か卵が先かという問題はひとまず置くとしても、幅広い年齢層のファンを獲得しているのも当然、と思わせるだけの充実ぶりは、映像メディアも同様なのである。
■レースが終わると、各施設は即座に撤収にかかる。ピットボックスが片付けられ、バイクや各種備品がトレーラーへ積み込まれる。ツナギやヘルメット、パーツ類等のサービスカー、チームホスピタリティ、グッズ販売店舗等々、あらゆる設備はレース終了後数時間の間に撤収準備を完了させてしまう。2週連続開催の場合などは特に、パドックがあっという間にがらんどうになる。逆に、レース翌日にテストが行われる場合などは撤収する必要もなく、どことなくのんびりした風情が漂うことも。