HRC総監督・石井勉レポート

 

−サマーブレイク前のレースを総じて振り返ると、今季はBSがミシュランを凌駕しているようにも見えますが。

石井「どうなんでしょう。見方によっては、BSのパフォーマンスが普通と捉えることもできると思います」
田中「排気量が990ccから800ccになったことは、大きな要因のひとつでしょう。BSはもともとフロントタイヤに定評があるから、旋回時にも安心感があるのでしょう。逆にミシュランは耐久性という部分で勝っていたのですが、タイヤを壊すほどの馬力がかからなくなったために、エッジグリップに一日の長があるBSのほうへ風が吹いているという傾向があるのかもしれません。そうは言っても、我々も毎戦、タイヤメーカーのスタッフと話をする機会はあるわけだから、私たちの投げかけが十分ではない、という反省もあります。誰かが悪いと一方的に決めつけるのは簡単ですが、我々も膨大なデータを持っているわけですから、『これを見てくれよ。ここがダメなんだよ。だからここを何とかしてくれよ』というコミュニケーションをさらに密にしていかなければいけないんだと思います。まさか今から、Hondaというタイヤを作ることもできないわけですし(笑)」
石井「そういう意味では、今シーズンのタイヤ本数制限や、決勝日直前にそれまでの結果を見て、スペシャルなタイヤを作れなくなったことがミシュランに不利に作用している、と巷間よく騒がれていますが、果たして本当にそうなんでしょうか。アメリカGPはヨーロッパ外のレースなので、昨年も今年もそのような特別なタイヤを持ち込むことはできませんでした。それでこの結果です。しかも、BSは昨年まで苦手にしてきたコースを今シーズンはことごとく克服してきています。つまり、本数制限やレースの直前にタイヤを作れなくなったレギュレーションに関係なく、BSは精力的な開発を進めてきたということなのだと思います。多分、今シーズンが去年と同じレギュレーションだったとしても、きっとBSはよい結果を出していたでしょう。だから、私達もさらに気合いを入れてミシュランと一緒に開発を進めていく、という状況です」

−その意味では、シーズン前から目論んできた、Honda陣営内部での切磋琢磨が見事に達成できている、とも言えるのでしょうか。

石井「まさにそういうところを明確にしたかった、というのが私の狙いなんです。まったく同じ仕様でタイヤ違いの3台目のマシンを用意するのが理想なのでしょうが、チーム事情や契約面の問題もあって、なかなかそうはできません。ただ、我々はワークスとサテライトチームを束ねていますから、レプソル・ホンダ・チームを軸に、色々なさじ加減で戦略や戦術を練っていく。その結果、我々の課題や現状が理屈抜きで一目瞭然にわかってしまうので、技術的にも推測や憶測なしに集中できる。また、タイヤについては各チームがBSやミシュランと一緒になって開発を進めて、内部でもどんどん競争をしていく、ということです」
田中「そういう意味では、ラグナの結果はすごく面白くて、ミシュランにがんばってくれと言うきっかけになった。ケガをして万全のコンディションでなかったマルコが3位なんですよね。いいパーツが来てマシンがよくなった、と言ってくれて調子を上げていたから、あのケガがなければ、2位もあったかもしれない。その彼が履いていたタイヤは何だっけ、と考えるとBSだった。本来なら、ワークスチームのニッキーやダニの方がわずかにマシンポテンシャル的にはいいはずだから、それに応じたリザルトになってもしかるべきなんですが、結果としてマルコがいいリザルトを出した。じゃあ、我々はミシュランと一緒にもっとがんばらなければ、と奮起する材料になるわけです」
石井「我々にとって勝つことは使命だし、勝ちたいからレースをやっているんですが、こうやって自分たちの首を絞めるようなさまざまな仕掛けを施しているのは、さっきも言ったとおり、課題を明確にしてそのポイントに集中するためなんです。我々も含めて、パーツメーカーやタイヤメーカーなど、全員がコンペティターです。ひとくちに勝つといっても、その中身をよく見てみるとすべてが競争だというところがレースの魅力で、そこがはっきりと見えてしまうのは、逆にファンの方々にとってもむしろ魅力的なのではないかという気がするんです」

−では、ここまでの課題がクリアになったということで、次のブルノに向けて……

石井「というと、どうして問題を解決できないんだ、さっさとしろ、と皆さんからお叱りを受けてしまうんですが(笑)。ブルノでは新しいものを投入する計画です」
田中「さらに進んだバージョンの車体とエンジンを準備しています。エンジンは低中速から加速をスムーズにつないでいけるような特性で、さらに馬力も若干上乗せしています。サテライトチームにも、見た目でハッキリとわかるパーツが入っていく予定です。それでよい成績が残せれば、Honda全体としてはさらにハッピーですね。さらに、ブルノでは2日間の事後テストを予定しているので、次は非常に大事なレースだといえます」

−勢い、というものは大事ですからね。

田中「それもとても大事です。サマーブレイク明けのブルノでいいパーツを投入できるかどうかは、次の年にも影響を及ぼします。20年間レースを経験してきて思うんですが、後半戦に何を突っ込むかで来年が読めますよ。そういう部分では、Hondaに何ができるのか、ということを証明しなければいけない。ライバル陣営に追いついて追い越すために、シーズン終盤まで手を休めるわけにはいかないんですよ。チャンピオンは逆転不可能になるまでもちろん諦めないし、これからどう勝つのか、どう実力を上げていくのか、最後は私たちが上にいるために何をすればいいのか。そこを考えながら後半戦に向かっていきます」
石井「250ccクラスも、MotoGPより一足先にサマーブレイクに入っているので、休み明けは心機一転、ブルノではさらにがんばってくれるでしょう。また、ワークスチームも、タイトルスポンサーのレプソルY.P.F.と、さらに2年契約を更新しました。彼らの熱意や支持に対して結果でしっかりと報いることができるよう、さらに努力と挑戦を続けていきます。後半戦の我々の戦いに、更なるご期待と一層の応援をよろしくお願いします」

※「2輪&4輪選手たちの母国グランプリ ニッキー・ヘイデン篇」もアップされていますので、併せてご覧下さい。

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