アイスランドの火山噴火の影響でヨーロッパ各国の主要空港が閉鎖されたため、4月25日に予定されていた第2戦日本GPは、10月3日に第14戦として開催されることが決まった。そのため第3戦スペインGPが第2戦に繰り上がった。過去、グランプリが天災のためにキャンセルされたのは、1980年、大雪に見舞われたザルツブルグのオーストリアGP以来、30年ぶりとなる。
延期になったのは、カタールGPを終えてヨーロッパに帰った選手、チームスタッフが空港の閉鎖により日本に駆けつけられないためだった。さらに今回、もうひとつ問題となったのは、カタールから日本に送られていたマシンや機材など270トンの荷物をスペインに送れるかどうかということだった。これも、空の運行が徐々に正常に戻り、無事にマシンと機材はスペインへ。日本GPに続いてスペインGPも中止延期という危機を脱することができた。
ヘレスでは、1987年に初めてスペインGPが開催された。以来、スペインGPの舞台として定着、シーズンを通じて最も観客の集まる大会として知られている。大小13のコーナー。パッシングポイントの多いコースレイアウトは、選手にもファンにも好評で、毎年、12万人を超える大観衆がサーキットを埋め尽くす。
このサーキットは、ウインターテストも頻ぱんに行われている。そのため、このサーキットを得意とする選手は多く、チームもまた、豊富にデータを持っている。しかし、このオフにヘレスでウインターテストが行われたのは、125ccクラスとMoto2クラスのみ。MotoGPクラスはテストが行われなかったため、ぶっつけ本番で大会を迎えることになる。
開幕戦カタールGPでは、Honda勢全体が、2010年型RC212Vのセットアップに集中しなければならなかった。今季型は、09年型をベースに、車体、エンジンともにポテンシャルを上げた。開幕戦から、そのアドバンテージを生かす戦いが期待されたが、今年はサスペンションが、ショーワからオーリンズに代わったことで、そのセッティングにほとんどの選手が集中することになった。
その中で、昨年のシーズン中から、一足早くオーリンズを使っているアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Repsol Honda Team)が順調にセットアップを進め、開幕戦カタールGPでは3位表彰台を獲得。また、Honda勢の中では、唯一、以前からオーリンズを使ってきたランディ・デ・ピュニエ(LCR Honda MotoGP)が6位と、オーリンズで走り慣れている選手がまずまずのスタートを切った。
ドヴィツィオーゾは、ヘレスは得意なサーキットではないと語るが、今回、2戦連続表彰台と今季初優勝を狙う。今季好調なスタートを切ったドヴィツィオーゾ。ヨーロッパラウンドの初戦となるヘレスでマシンのセットアップを進め、第3戦以降に弾みをつける意気込みだ。
デ・ピュニエも、昨年の大会では4位。ヘレスはシーズンを通じて最も得意とするサーキットだけに、今年は表彰台獲得の期待が膨らむ。デ・ピュニエは、日本GPのキャンセルが決まってからトレーニングに励み、スペインGPに100%ターゲットを絞ってきたというだけに、今大会の走りに注目が集まっている。
開幕戦カタールGPで出遅れたダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)も、ホームGPに闘志を燃やす。カタールGPでは、予選、決勝とマシンが完ぺきな状態に仕上がらなかった。しかし、決勝では、好スタートを切って序盤にトップグループに加わった。その力強い走りは、今大会からの復活を大いに期待させるものだった。2006年に最高峰クラスにデビューを飾り、以来、ヘレスでは1勝を含む4回の表彰台に立ってきた。今年は地元ファンの熱狂的な応援の中、2年ぶりのスペインGPでの勝利を狙っている。
ウインターテスト、そして開幕戦と苦しい走りをしている、マルコ・シモンチェリとマルコ・メランドリのTeam San Carlo Honda Gresiniの両選手も、得意のヘレスに気合を入れている。シモンチェリは、カタールGPの後、日本のHondaを訪れ、風洞実験に取り組んだ。ヘレスでは125ccクラスに出場していた05年にGP初優勝を達成。以来、毎年ファンを喜ばせる走りをしているだけに、今大会の走りに注目される。メランドリもヘレスは得意なサーキット。開幕戦カタールGPでは、フラストレーションのたまるレースを続けた。マシンのセットアップが決まれば、優勝候補、チャンピオン候補のひとりだけに、今大会からの巻き返しが期待されている。
青山博一(Interwetten Honda MotoGP)も、ヘレスは得意としている。250ccクラスに参戦していた昨年は、見事、優勝してスペインのファンを喜ばせた。今年はここまでマシンのセットアップに集中しているが、得意とするサーキットだけに、一気にセッティングが進む可能性は高い。青山は、マシンのセットアップを決めて着実にタイムを上げていくタイプ。開幕戦ではスタートの遅れを取り戻して10位でフィニッシュした。今大会も、フリー、予選、決勝と着実にタイムも順位も上げていく青山の走りに期待したい。
Moto2クラスも、大きな注目を集めそうだ。開幕戦カタールGPでは、富沢祥也(Technomag-CIP)が記念すべき初レースのウイナーとして世界中の注目を集めた。今大会も優勝候補の一人として2連勝に期待がかかる。また、開幕戦で2位になり、地元スペインGPに闘志を燃やすアレックス・デボン(Aeroport de Castello-Ajo)、3位のジュール・クルーゼル(Forward Racing)にも注目。4位のトニー・エリアス(Gresini Racing Moto2)、リタイアに終わった高橋裕紀(Tech 3 Racing)、アレックス・デ・アンジェリス(RSM Team Scot)、フリアン・シモン(Mapfre Aspar Team)らの巻き返しにも注目される。Hondaエンジンを搭載して今季からスタートしたMoto2クラス。開幕戦では41台が出場する激戦となったが、今大会も熱い視線が注がれそうだ。
アンドレア・ドヴィツィオーゾ(MotoGP ランキング3位)「日本GPに向けてモチベーションを高めていたが延期になってしまった。しかし、そのままの気持ちをキープして、スペインGPに挑みたい。ヘレスは、これまでいいリザルトを残していない。正直、得意なコースではないが、ヘレスは大勢のファンが集まってくれるし、サーキットのムードもいい。ロケーションも最高だ。開幕戦カタールでいいレースができているし、その勢いをヘレスでも発揮したい。そして、今大会の走りを、これから続くヨーロッパラウンドに生かしたい。今回は月曜日にテストがあって、このテストもとても重要になる。今大会、そして、これからのレースにつながるテストにも全力を尽くしたい」
ランディ・デ・ピュニエ(MotoGP ランキング6位)「日本GPの延期が決まったときから、今週のヘレスに向けて、100%の状態で挑めるようにトレーニングに集中してきた。開幕戦カタールGPは6位になれたし、今大会もトップ10を目標に戦いたい。昨年のスペインGPはシーズンのベストレースのひとつで、4位でフィニッシュできた。今年も、同様のレースにしたい。ウインターテストでセットアップしてきたRC212Vは、開幕戦カタールでは、とてもよかったと思う。ヘレスでもそれは変わらないと思う。カタールと同じセッティングで初日に挑みたい」
ダニ・ペドロサ(MotoGP ランキング7位) 「ヘレスのスペインGPは自分にとってはいつも特別なレースだ。今年も開幕を楽しみにしている。開幕戦カタールGPは、みんなが喜んでくれるようなレースができなかった。日本GPが開催されるもてぎも好きなサーキットなので楽しみにしていた。しかし、アイスランドの火山噴火で延期になり、もてぎでいい状態に仕上げ、ヘレスに来るという目標も果たせなかった。しかし、ヘレスは雰囲気も観客も最高なので、いいレースになることを期待している。初日から気持ちよく乗れることを願っている。カタールGPを見てもわかるようにライバルたちはとても手ごわい。彼らと戦うために全力を尽くさなければならない。ヘレスは走り慣れているサーキット。バイクのセッティングもそれほど神経質ではないと思う。とにかく、開幕が楽しみだ」
青山博一(MotoGP ランキング10位) 「ホームGPである日本GPが延期になったことは本当に残念だった。しかし、スケジュールが空いたことで、日本に滞在して家族と一緒に過ごす時間が取れたことはよかったと思う。自分にとって今大会は、MotoGPクラスで2回目のレースになる。開幕戦カタールでは、初めて実戦を経験して学ぶことがたくさんあったし、今回はそれを生かしたい。250cc時代、ヘレスは得意なサーキットだったし、昨年は優勝することができた。こういうコースで走れることは、マシンの状態を確認するうえでもとても有意義だし、楽しみにしている。カタールGPはとりあえずの目標だったトップ10フィニッシュを達成した。今回はシングルフィニッシュを目指したい」
マルコ・シモンチェリ(MotoGP ランキング11位) 「もてぎの日本GPが中止になったことはとても残念だったが、スペインGPに向けていろいろ準備することができたのはよかった。このインターバルを利用して、3日間、日本に滞在した。風洞でいろいろ学ぶことができた。ストレートのスピードを上げるためにどうすればいいかも学ぶことができた。Hondaのスタッフと話し合う機会が得られたこともよかった。開幕戦カタールGPは自分の力もRC212Vのパフォーマンスも発揮できなかった。ヘレスは、グランプリで初めて優勝したサーキット。大好きなサーキットで、それは今も変わらない。いいレースができることを期待してヘレスに向かいたい」
マルコ・メランドリ(MotoGP ランキング13位) 「開幕戦カタールGPは、本当に残念な結果に終わった。日本GPが延期になったことは、スペインGPに向けて準備をする時間がより取れたということで、我々にはよかったような気がする。この2週間、チームはHondaとともに全力を尽くしてくれた。今回はいくつか新しいことにトライできるはずだ。カタールではフロントのフィーリングに苦しんだ。ブレーキングと初期の旋回がうまくいかなかった。ヘレスは、よりフロントのフィーリングが大事になるので、今抱えている課題を解消するために大事なレースになる。2005年には、ここで表彰台に立っている。昨年もヘレスではいいレースができた。得意のサーキットで、いい方向に向かうことを願っている」
富沢祥也(Moto2 ランキング1位) 「日本GPがキャンセルされたのは残念だったが、10月に延期になったことで、ある意味、プレッシャーから解放された部分はある。開幕戦で優勝してホームの日本GPを迎えるということで自分も気合が入っていたし、周囲の期待も大きかった。しかし、延期になって、より自信を持ってホームGPに挑めると思っているので、この変更は、僕にはプラスになったかもしれない。ヘレスは昨年、いろいろ学べたサーキット。スペインGP以降のヨーロッパラウンドに向けて自信が得られた重要なレースだった。今年もヘレスではテストしているし、そのときのデータもあるので、初日からいい走りをしたい」
アレックス・デボン(Moto2 ランキング2位) 「自分にとってヘレスはホームGPなので、とても気合が入っている。それ以上に、ヘレスは走り慣れているし得意なサーキットなので、スタートしたばかりの Moto2マシンを仕上げるのに最高のチャンスだと思っている。マシンのセットアップが順調に進むことを願っているし、それがうまくいけば、きっといいレースにすることができる。Moto2は、同じエンジンなので、とてもエキサイティングだし、とても面白い。このクラスでアドバンテージを得るためには、タイヤをいかにセーブするかにかかっている」
高橋裕紀(Moto2 ポイントなし) 「カタールGPは、本当に残念な結果だった。トップグループで走ることができたし、転ばなければ、勝てたかもしれないレースだった。開幕前は、Moto2クラスが、どんな戦いになるのか想像もつかなかった。しかし、開幕戦を終えて、優勝争いに絡んできそうな選手たちの顔ぶれもわかってきたし、あらためて今年はチャンピオン争いをしなくてはいけないと気合が入った。何度も言ってきているけれど、初代Moto2チャンピオンを目指してがんばりたい。ヘレスは好きなサーキット。転倒に終わったカタールGPの雪辱を果たしたい」