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VOL.2 空力

NSX-GTの空力開発

空力開発とは

SUPER GT GT500クラスは2014年から新しい規則に移行。ベース車の違いによる性能差を均一化するため、オリジナルのイメージを残したまま形状を変更するスケーリングルールが導入されている。NSX-GTの場合は、ボディ後半部分が延長された格好だ。スケーリング後のボディ形状に対して「デザインエリア(開発可能領域)」が設定され、その範囲内で空力開発を行うことが認められている。フロントスプリッターやディフューザーを含むアンダーパネルは、一部の自由開発エリアを除いて全車共通形状とするきまり。開発可能領域は前後バンパーとサイドシル部分。それに、前後ホイールハウスおよびフェンダーに限定されている。この開発可能領域はシーズン前に形状の登録が義務づけられており、シーズン中に変更することはできない。Hondaは予測技術に基づいた性能検討をベースに、CFD(コンピューターによるシミュレーション)やモデル風洞試験を実施。実車風洞試験や実走テストで最終確認を行い、最適な形状を導き出している。

主な空力パーツ

  • カナード

    バンパーコーナー部に付いているブーメラン状の空力パーツをカナードと呼ぶ。ダウンフォースを増大させるためのアイテムだが、これ自体で発生させるよりもむしろ、縦渦発生装置(ボルテックスジェネレーター)として機能する。縦渦を発生させると、その旋回流の中心が負圧になり、その負圧がフロントホイールハウスの空気を引き抜くことでフロントスプリッター下面を流れる空気の流速が高まってダウンフォースを増大させる。

  • リヤウイング

    2016年までは幅1390mmと1900mmの2種類のリヤウイングが設定されており、長い直線を持つ富士スピードウェイのみ、ウイングの効率が高く、最高速の伸びに効く1900mm幅の使用が認められていた。 2017年は1390mm幅のウイングが廃止され、全戦1900mm幅に統一された。富士以外のサーキットに最適化させると、年間に2戦ある富士で苦しむことになるため、シーズン全体を見据えた最適化が必要になる。

  • ディフューザー

    2017年は「スピード抑制」を目的に、ダウンフォースを25%減らす空力規定が導入された。変更点のひとつがディフューザーで、2016年までに比べて高さがほぼ半分(105mm)になっている。この結果、フロア下を抜ける空気の流れが遅くなり、ダウンフォース発生量は減る。ホイールハウスと貫通したリヤフェンダー後端も重要な空力開発領域だ。NSX-GTは後端を貫通させ、下部はディフューザー状の処理を施している。

  • ラテラルダクト

    車両全体のダウンフォースを増大させるうえで、非常に重要な開発エリア。フロントスプリッターを通過した空気を効果的に抜くのが、ラテラルダクトの役割のひとつ。前後の空力バランスを最適化させることが重要なので、「抜く」だけにこだわるのではなく、前後のバランスやダウンフォースとドラッグのバランス調整に用いる。リヤタイヤの直前にある半円錐形のパーツが2017年型NSX-GTの特徴となっている。

  • アウトレット、ルーバー

    エンジンは車両ミッドに搭載するが、ラジエターはフロントに搭載しており、ボンネットのダクトから排熱が放出される。この排熱はエンジンの吸気温度やリヤウイングの性能に悪影響を与えるので、空気の流れに関しては入念な検証が欠かせない。冷却や空力のバランスから、ダクトを半分閉じた状態で使うこともある。フロントの空力特性に影響を与えるフェンダー上部のルーバーは、穴の数やサイズが厳密に規定されている。

イラスト:クラリティ フューエルセル ※イメージ図

一般的な乗用車の空力目的

空気抵抗の低減

一般的な乗用車が風洞を利用して空力開発を行うのは、第一に燃費のためだ。車速の上昇につれて走行抵抗に占める空気抵抗(ドラッグ)の割合は加速度的に大きくなる。高速走行時は、走行抵抗の大部分を空気抵抗が占めるほどだ。空気抵抗を低減すればロスが減り、燃費の向上につながる。そのため、一般的な乗用車の空力開発では空気抵抗の低減に力を注ぐ。

操縦安定性の向上

車体が受ける空気の流れを上手にコントロールすると、操縦安定性が向上する。この操縦安定性の向上も、一般的な乗用車における空力開発の重要な目的だ。クルマを横から見ると、その断面は中央部が上に膨らんだ形をしている。その形状ゆえ、車速が増して前方から強い風を受けると車体を浮き上がらせるリフト(揚力)が発生し、とくに高速走行時に安定性が失われがちになる。そうならないよう、リフトを低減する開発を行う。

イラスト:クラリティ フューエルセル ※イメージ図
イラスト:NSX-GT ※イメージ図

レースマシンの空力の目的

空力効率の向上

空気の圧力差を利用して発生させる下向きの力をダウンフォースと呼ぶ(リフトと逆向きの力)。ダウンフォースを向上させると、タイヤの接地荷重が増してグリップ力が増し、コーナーを速く回れるようになる。コーナーを速く回れるようになると、ラップタイムの短縮につながる。だから、レースマシンはダウンフォースの向上を目指して空力開発を行うのだ。

ドラッグの低減

その際、ドラッグに気をつける必要がある。ダウンフォースを増やすと引き換えにドラッグも増えてしまうからだ。ドラッグは最高速にも影響を与える。ダウンフォースだけを追い求めて開発した場合、コーナーは速いがストレートの伸びに欠け、せっかくコーナーで頑張ったのにストレートで抜かれてしまうという残念な事態になりかねない。そこで、ドラッグの上限は定めておき、そのなかでダウンフォースを向上させる開発を行う。一般的には、ダウンフォース(L:ダウンフォースはマイナスのリフトなので「L」を用いる)とドラッグ(D)の比率で求められる空力効率(L/D:エル・バイ・ディー)を高めることを目的に開発を行う。

イラスト:NSX-GT ※イメージ図

LAP 3

Hondaの場合、エンジン冷却パッケージの開発も空力チームが担当する。エンジンが所期の性能を発揮しなければ走ることができない。だから、ラジエターやインタークーラーに必要な風量を確保できる冷却パッケージを最初に考え、それを踏まえて空力性能の開発に移行する。

※イメージ図

LAP 4

開幕前のテスト期間中は、2017年参戦仕様に比べてカナードの枚数が少なく、ラテラルダクトはシンプルで、リヤフェンダー後端は貫通していなかった。空力性能の効果は多角的に検証して最終仕様に至る。どんな小さな変更であっても、仕様の変更は性能が向上したことを意味する。

※17年仕様 テストカー

空力開発の現場から

Honda NSX-GTの空力開発の手順を教えてください。

「まず量産NSXの形状をベースに、規則で定められた内容に関して対応します。我々が好き勝手に形状を変更できるわけではありません。その規則対応を行った後に開発に着手します。量産の空力開発でも使っていますが、最初にCFD(コンピューターによるシミュレーション技術)で検討します。CFDでアイデアを絞り込んだら、風洞モデルを製作して試験を行い、風洞モデルでアイデアを絞り込んで実車での試験に臨みます」

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2017年モデルの開発はいつ始めたのでしょうか。

「通常、シーズンが開幕すると次のシーズンのクルマの開発を始めます。競合他社のラップタイムの伸びなどから、次のシーズンの性能目標を決めます。その目標のうち、エンジンは何キロワット上げる、空力はL/Dをどれだけ上げるといったように配分を決めます。GT500は共通部品が多く、手がつけられる領域が限られているので、目標達成に対してエンジンと空力が占める割合は大きくなっています」

2017年はスピード抑制を目的にダウンフォースを25%減らすレギュレーション変更が行われました。

「フロントのスプリッターとリヤのディフューザーの寸法を変更して、ダウンフォースを25%落とす規定が導入されました。また、16年までは富士スピードウェイ戦にだけ認められていた(フロントバンパーコーナー部の)フリックボックスが認められなくなり、リヤウイングは全戦、富士で使用していたスペックに統一されることになりました。2017年はシーズンを通して単一のスペックで走ることになります」

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空力デバイスごとの役割を説明することはできるのでしょうか。

「難しいですね。空力は、特定の部位が特定の効果しか持たないという開発ではないからです。例えば、フロントバンパーに付いているカナードは、それ単体でダウンフォースを発生させているわけではなく、そこで作った渦をラテラルダクトやリヤに飛ばすことでダウンフォースを発生させる考え方です」

素直にダウンフォースを25%落としたくはない。

「もちろんです。実走テストでもすでに大きなアップデートが入っていますが、極論すれば、それはL/Dが上がるアイデアを投入した結果と判断していただいてかまいません。空力は開発を続ければ続けただけ、性能が向上します。そのためには、初期の検討~モデル風洞~実車風洞~実走テストの効率を上げていくことが重要。ぎりぎりのタイミングまで開発を続け、いいものを入れていきます」

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